デジタルの秘法
著作名
デジタルの秘法
著者
キャサリン・ネヴィル
ジャンル
経済ミステリ
星の数
★★★★
出版社
文春文庫
原作出版
1992
備考
海外ミステリ全カタログより

主人公はワールド銀行で最高のサラリーをとっている女性エグゼクティブ、電信送金部門の部長ヴェリティ・バンクス。彼女は最初、世界最大のコンピュータ・メーカー、モノリス・コーポレーションに就職する。当時はIBMも時計の名前と勘違いするくらい無知だった。しかし毎日猛烈なガリ勉を続けるうち、この世界の天才ゾルタン・トールに出会う。ある日オフィスに行くとボスのアルフィが彼女を呼び出した。ボスは彼女を嫌っていて、社員教育と称して彼女の無能ぶりをあばくことに全力を傾けていた。最上のクライアントの担当者に任命するという難題をもちかけ、難解にして膨大な資料が手渡された。専門外の諸表が詰まったファイルを前に途方に暮れるヴェリティを窮地から救ったのがゾルタン・トールだった。彼はその週末を彼女の特訓に充てた。各種のコンピュータ、オペレーティング・システム、プログラミング言語から、各コンピュータが産業界でいかに使用されているかまで極めて豊富な知識をわずか三日間でマスターさせたのだ。ボスの悪意に満ちた意図は一蹴され、彼女とボスの立場は逆転した。やがて、トールは自分の会社を作るためモノリス社をやめた。ヴェリティもまた、モノリスにいる限り女性が管理職に昇進することはあり得ないと知って、現在の金融界へと身を移したのだ。そして彼女は地位と権力と金を得た。

ヴェリティが今計画しているのは、自動化されたセキュリティ・システムに侵入して、送金システムに入り込み、お金の一部を移動させ、それがいかに簡単なことかを指摘するゲームだ。彼女はその計画を実行すべく最良の人脈を活用して行動を開始した。そして、ニューヨークで、何年ぶりかで師ゾルタン・トールに会う。彼は再会を喜び、彼女の計画を聞き、さらに挑戦してきた。トールは証券取引所を舞台に多額な悪質な金銭を引き出そうというプランを示し、どちらが勝つかを賭けようという。

霧のサンフランシスコから雪のニューヨークへ、そして陽光ふりそそぐエーゲ海の小島へと舞台は移り、個性豊かな(いいかえれば変わり者ぞろいの)友人たちに囲まれて、ヴェリティの犯罪計画は進んでいく。殺伐たる現代を象徴する金融犯罪小説かと思ったら、とんでもない間違いで、これは本当は知的で洗練された大人のためのファンタジーだった。

さて、本書は四部に分かれていて、それぞれの冒頭で前奏曲のようにしてロスチャイルド家の歴史を語るという、なかなかおもしろい趣向になっている。各章のタイトルには金融用語が数多く使われていて、こんなところにも作者の遊び心が伺える。

その一部をこちらで紹介している。


inserted by FC2 system