舞台はチチェスター。出版社を経営するブラッカーという男が自宅コテージの火事で焼死する。放火であることは一目瞭然。デビュー作の出版をめぐって彼と対立していた作家のマクデイドが容疑者として逮捕される。それを知って、マクデイドが会長を務める作家サークルの仲間は大パニック。会長みたいに善良な人がそんな恐ろしい犯罪を犯すはずはないと信じて、真犯人探しに乗り出す。
一方、マクデイドを逮捕したものの、作家サークルのほかの面々もブラッカーに反感を持っていたことが判明して、警察の捜査は難航。やがて、同一人物の犯行と思われる第二の放火事件が発生し、サークルのメンバーの一人が焼死、拘留中だったマクデイドを釈放せざるをえなくなる。地元警察の面子はまるつぶれだ。そこで、助っ人として登場するのが、『漂う殺人鬼』でダイヤモンド警視を助けて大活躍したヘン・マリン主任警部(なつかしい!)。
その名が示すとおり、メンドリ(ヘン)みたいに威勢がよくて、細い葉巻をくゆらすのが大好きという点は、以前と少しも変わっていない。ボグナー・リージス署に勤務する彼女がチチェスターの放火事件の捜査の指揮をとることになったため、地元警察の連中はいささかむくれているが、そんなことでひるむ彼女ではない。ボグナー・リージスから連れてきた有能な部下、ステラ・グレッグスン部長刑事をこき使いながら、てきぱきと捜査を進めていく。
作家サークルの会長だけは容疑者の枠からはずれたが、残りのメンバーがまだ容疑者として残っている。壮大なファンタジーを執筆中のザック、ガーデニングが大好きなバジル、その妻で魔女裁判をテーマとするノンフィクションにとりくんでいるナオミ、ロマンス小説を何作も書きあげたダグマーなど、ひと癖もふた癖もある個性豊かなメンバーを相手に、警察は四苦八苦だ。
「容疑者がこんなに多い事件は初めて」とヘンがぼやくのも無理はない。
被害者ブラッカーの過去を探り、サークルのメンバー一人一人の事情聴取をおこなって、真犯人をつきとめようとする警察の努力と、自分たちの手で事件の真相に迫ろうとするサークルの素人探偵たちの活躍が、ユーモアたっぷりの筆致で交互に描かれ、ダイヤモンド警視シリーズとはまたちがった味わいを持つ作品に仕上がっている。
後半ではウェブサイトのことやGoogleでの検索もふんだんにでてくる。
こんなラヴゼイが自分のウェブサイトを持っていないなんて、もしかしたら気づいてないだけかも。