ユダの窓
著作名
ユダの窓
著者
カーター・ディクスン
ジャンル
本格推理
星の数
★★★
出版社
ハヤカワ文庫
原作出版
1938
備考

ジェイムズ・アンズウェルは、大柄で気だてがよく、誰にでも好かれる若者だった。彼は母親の遺産を相続していたが、あるパーティでメアリー・ヒュームと出会い、たちまち恋におちいり婚約する。メアリーの父親は元銀行家の資産家で、誠実さと猜疑心を半々に身につけた人物である。

ジェイムズは将来の義父に会ってみようと思いたち、ロンドンに向かうが、見送りにきたメアリーはなぜか青ざめた顔をしていた。夕方の六時すぎ、グロブナー街の立派な邸宅に到着すると、彼は事務室風の天井の高い部屋に通された。窓は二つあり、いずれもシャッターが下ろされている。正面の壁には白大理石づくりのマントルピースがあって、その上の壁面に三本を三角形に組み合わせたアーチェリーの矢が取りつけてあった。

デスクの向こうから、六十過ぎのエイヴォリー・ヒュームが立ち上がり、ジェイムズに声をかけた。それは心がこもっているというのでもなく、かといって敵意に燃えているというものでもなかった。

ヒュームはウィスキー・ソーダをジェイムズに勧めた。ところが、酒に口をつけたジェイムズは意識を失ってしまう。何者かが彼に毒を盛ったらしい。

しばらくして意識を取り戻すと、デスクの脚もとにエイヴォリー・ヒュームが倒れているのが目に入った。ジェイムズがヒュームの体をおこすと、その胸から細く丸い木の棒が突き出ていた。矢だった。その端にはすり切れてほこりにまみれた三枚の羽根がついていた。彼が立ち上がって部屋のなかを見回すと、三本あったはずのアーチェリーの矢が二本しか見あたらない。二つの窓は内側から閉めてあるし、ドアは内側から差しこみボルトがかかっている。しかし、何者かがヒュームを殺して、部屋を出ていったはずだ。このままでは自分が犯人にされてしまう。そのとき、部屋の外からドアを叩く音がした。

かくして、ジェイムズ・アンズウェルは殺人容疑で逮捕され、ロンドンの中央刑事裁判所で裁判が始まる。ジェイムズの弁護人は、かの有名なヘンリー・メリヴェール卿。過去、数々の不可能犯罪を暴いてきた彼は、この密室には第三の窓があると主張する。その“ユダの窓”とはいったい何か?


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