捜査官ケイト
著作名
捜査官ケイト
著者
ローリー・R・キング
ジャンル
警察ミステリ
星の数
★★★
出版社
集英社文庫
原作出版
1993
備考
海外ミステリ全カタログより

MWA1994年度最優秀処女長編賞受賞作。最近のアメリカ・ミステリは、いかに新鮮味のあるキャラクターを創造するかに腐心しているが、本作にはミステリ史上初(?)のレズビアン刑事が登場する。

サンフランシスコのベイ・エリアには、タイラーズ・ロードと呼ばれるコミューンがあった。荘園住まいの現代風領主を気取っているジョン・タイラーの地所に当たるその地域には、電気も電話もなく、車の通行も週に二日しか許されていない。七十人以上の住民が俗世間から逃れ、平和な生活を享受していた。だが、そこで凄惨な幼女連続絞殺事件が発生したのである。

幼稚園に通う幼女三人が次々と行方不明になり、全裸(いたずらをされた形跡はない)の状態で、タイラーズ・ロードの路上またはその付近で発見された。三人には右手で絞殺された跡があった。

事件の担当となったのは、事件にどっぷりとつかっては事件そのものに食いつぶされてしまうタイプのアル・ホーキン巡査部長で、その相棒に選ばれたのは、一年前に刑事に抜擢されたばかりのケイト・マーティネリだった。ケイトは同僚たちには内緒にしていたが、四年前からリー・クーパーなる女性セラピストと同棲中だった。

ロードに赴いた二人は、タイラー邸で住民たちの事情聴取を開始する。犯人はこの辺りの地理に明るい者と推察されたことから、ここの住民である可能性が高かった。サンフランシスコ市警に戻ったケイトは、コンピューターで住民の来歴の検索を行ったところ、ヴォーン・アダムズという名前の三十六歳になる女性が浮かび上がってきた。彼女には、十八の時にベビーシッター先の六歳の女の子を絞殺した容疑で逮捕され、有罪判決を受け九年半服役したという過去があった。

ホーキンとともにヴォーン邸に出向いたケイトは、戸口に現れた彼女の姿を目撃して驚愕する。それは、昨年ニューヨークで個展を開いて大成功を収めた新進気鋭の女流画家、イヴァ・ヴォーンその人に他ならなかった。彼女は警察の来訪を予期していたらしかったが、生気のない表情は、まるで生ける屍のようだった。アリバイもなく、状況は彼女には極めて不利だった。

主人公ケイトの捜査活動にどちらかといえば重点を置き、私生活の方はさらっと描かれているので、読んでいてもさほど重たくはない。気になったのは、499頁の感動的な場面での<盗まれた手紙>という語句で、訳者はゴシック小説に結びつけた説明を行っているが、これはポーのかの有名な短編の、手紙の隠し場所のことを指しているのではないだろうか? 訳者の解釈だと、この場面の性格がまるっきり違ったものになってしまうので、ひと言苦言を呈しておきたい。


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