時の娘
著作名
時の娘
著者
ジョセフィン・テイ
ジャンル
歴史ミステリ
星の数
★★★
出版社
ハヤカワ文庫
原作出版
1951
備考

出版から半世紀たった今も、日本や英米で読みつがれている『時の娘』を、故アンソニー・バウチャーは「全探偵小説におけるベストのひとつ」と評した。しかし半世紀前の作品のため差別的な表現が見られるし、日本人に馴染みの薄いイギリス史を扱っているので、とっつきにくいかもしれない。また翻訳も30年前のものなので、表現の古さも否めない。だがそれを差し引いたとしても、お勧めしたい作品である。

面白さの秘密は2つ。1つめは主人公の設定。主人公のグラント警部が事故で足を骨折し、ベッドから動くことができない究極の安楽椅子探偵として登場することだ。2つめはシェークスピアが戯曲化し、日本人でさえ知っている歴史的事実に疑問を呈したことだ。リチャード3世といえば、兄王の2人の王子をロンドン塔に幽閉して殺害し、王位を奪った悪名高き人物である。だがグラントはそれに疑問を抱く。

グラントは顔を見れば、その人物が悪人かどうかすぐに区別がつくという才能の持ち主だった。暇つぶしに肖像画を見ていた彼の目には、リチャード3世が悪人には映らなかった。そして疑問が膨らんだ彼は入院中の退屈しのぎに、ロンドン塔の事件の調査をしようと考える。彼は助手となったキャラダイン青年に当時の資料を探すよう依頼し、それを元に事件を洗いなおす。はたしてグラントが出した結論は? それは実際、本を手にとって確かめてもらいたい。


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