緊急深夜版
著作名
緊急深夜版
著者
ウィリアム・P.マッギヴァーン
ジャンル
社会派ミステリ
星の数
★★★
出版社
ハヤカワ文庫
原作出版
1957
備考
「地獄の読書録」小林信彦より

アメリカのある腐敗した小都市で、革新系の候補が、女殺しの容疑者として検挙されます。むろん、そのかげには現市長以下保守派の黒い手が動いているのですが、ひきつづいて、この事件の鍵を握る下っぱの警官が殺されます。――こういった滑り出しで、東京都知事選挙を思わせるような市長選挙の騒ぎ、保守派につながる汚職(木下商店のような商会も出てきます)のカラクリが、一人の新聞記者の調査によって明らかになってくるのです。

犯人探しのようなものもあるにはあるのですが、これは、カンのいい人なら直ぐ分かるようなもので、大したことはありません。しかし、この作品の価値は、そうしたところにあるのではなく、この小都会における市民生活のディテイル――記者の日常や良心的警察官の悩みなどが、生き生きと描けているところにあるのです。(じっさい、頁の間からブラック・コーヒーやタバコの匂いがしてくるようなすばらしい描写があります)こうした新しい行き方が、海のこちら側の松本清張氏などの方法と軌を一にしているのも興味深い事実です。

また、手法的にみても、ハードボイルド特有の大立廻りがなく、本来ならクライマックスとなるべきラストのいざこざも、すべて電話で片附いてしまうのです。主要人物であるグレン隊の一人の死なども、会話の中で示されるだけです。こうした手法のために、物語の現実味が一段と濃厚になっていることはいうまでもありません。安い本ですから、ピース四コを灰にしたつもりでお買いになることをおすすめします。


新聞の社会部記者サム・ターレルの所にある日、密告電話があった。二週間後の市長選挙に立候補している市政改革派のリチャード・コードウェルが歌手のエデン・マイルズと何回もホテルで会っているというのだ。エデンは市を牛耳る黒幕アイク・セラーズの子分のチャンスとの仲を噂される札付きの女だった。

やがて奇怪な事件が起こった。コードウェルの自宅でエデンが首を絞められて殺され、その近くでコードウェルが酔いつぶれていたのである。
だが、サムは警官のパディ・コグランが現場に到着したとき、一人の男を目撃したことを知り、事件に疑惑を抱いたが、市警本部のスタンコ警視は、パディの口を封じて、犯人はコードウェルだとして捜査を打ち切ってしまう……。


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