「彼を愛しているのかい」
「あなたを愛しているんだと思ってたわ」
「あれは夜だけのことさ」と、私はいった。「それ以上のことを考えるのはよそう。台所にまだコーヒーがある」
「もういらないわ。朝のお食事のときまで飲まないわ。あなた、恋をしたことないの? 毎日、毎月、毎年、一人の女と一しょにいたいと思ったことないの?」
「でかけよう」
「あなたのようにしっかりした男がどうしてそんなにやさしくなれるの?」と、彼女は信じられないように訊ねた。
「しっかりしていなかったら、生きていられない。やさしくなれなかったら、生きている資格がない」