毒を食らわば
著作名
毒を食らわば
著者
ドロシー・L.セイヤーズ
ジャンル
本格推理
星の数
★★★
出版社
創元推理文庫
原作出版
1930
備考
海外ミステリ全カタログより

英国を離れていたピーター卿は、その留守中にあった毒殺事件の裁判を傍聴していた。被告人は女流探偵作家のハリエット・ヴェイン、かつての同棲相手であり、進歩的な文学作品を発表していたフィリップ・ボーイズを砒素で謀殺した嫌疑をかけられていた。ハリエットに一目ぼれし、その無罪を確信するピーター卿は、陪審員に向けての判事の説示に耳を傾けていた。

フィリップはハリエットと袂を分かって以来、彼女とのことを思い悩んでいたが、ついにハリエットとの最後の会見を決意、いとこの弁護士ノーマン・アーカートの家で夕食をとったあと、ハリエットのフラットへ向かった。ハリエットはフィリップにコーヒーを勧め、運命の会談が始まる。だが会談は三十分ほどで不調に終わり、おかげで気分が悪くなったとフィリップは捨てゼリフを残し、フラットを辞去する。タクシーの中でフィリップは具合が悪くなり、自宅にたどり着いたあとに容態が悪化、帰らぬ人となってしまった。

アーカート邸での食事は被害者以外も口にしており、コーヒー以外に砒素が混入した経路は考えられなかった。さらに、ハリエットが薬局から砒素を購入していた(当人は毒殺を扱った新作のためと主張)事実が判明しており、状況は絶望的だった。だが、陪審員の中に運よくミス・クリンプスンがいたことから、陪審員は意見の一致を見ず、裁判は再審理の運びとなる。とはいえ、真相究明までピーター卿に残された時間は、わずか一ヶ月にすぎなかった。

ピーター卿の登場する長編群は、その文章の美しさ、豊かな物語性、巧みなプロットなど、まさに英国ミステリを代表する最良のシリーズの一つである。本書に初登場するハリエット・ヴェインは、このシリーズになくてはならない女性キャラクターで、彼女の登場により、ピーター卿の人間性にも厚みが増してくる。

本書は、毒殺方法の謎という抜群の不可能趣味に加え、ミス・クリンプスンの活躍する抱腹絶倒ものの降霊会シーン、ピーター卿の妹メアリとパーカー首席警部のロマンスなど、実に見どころの多い長編で、にやりとさせられるエンディングも秀逸。『不自然な死』のミス・クリンプスンや、『ベローナ・クラブの不愉快な事件』の彫塑家、マージョリィ・フェルプスの再登場も、ファンにはうれしい。


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