暗闇の囚人
著作名
暗闇の囚人
著者
フィリップ・マーゴリン
ジャンル
法廷ミステリ
星の数
★★★
出版社
ハヤカワ文庫
原作出版
1995
備考

ジョン・グリシャムやスコット・トゥローの手になる法廷物、リーガル・サスペンスの類が成功して、ミステリ界には検事や弁護士がひしめき合う状況になりつつある。当然今の風潮に合わせて、女性法律家たちの活躍の場もふんだんに設けられた。この作品も女性検事補、死刑訴訟専門弁護士、女性調査官などが主要人物とあって、そういった面白さを狙ったものと思われそうだが、前作『黒い薔薇』で鮮やかなサイコ・スリラーの手腕を披露したマーゴリンだけあって、単なる裁判小説では決してない。

オレゴン州ポートランド、州最高裁判所判事の調査官として働く女性トレーシー・キャヴァナは、欠員募集中の死刑訴訟を専門とする辣腕弁護士マシュウ・レイノルズの事務所へ転職を希望している。レイノルズは法廷でオレゴンでも指折りの女性検事補アビゲイル・グリフンと対決していた。そんな時、アビゲイルが死刑に追い込んだ異常犯罪者ディームズが最高裁の決定で釈放される。

その決定に加担したのがアビゲイルの夫で、彼女と離婚問題が進行中の判事ロバートだ。彼女は怒り狂う。ディームズの罪は彼の関係する麻薬ルートに入り込んだ男を残虐きわまりない方法で惨殺、その目撃者と娘を爆殺したもの。

一方、レイノルズのもとで勤務し始める直前、トレーシーの調査仲間でロバートの部下ローラが何者かに殺害される事件が起きる。続いて、ロバートも爆殺された。ディームズが目撃者親子を殺した時と酷似した方法で。

釈放になったディームズらしき人物が、アビゲイルの周辺に出没し始める。警察はロバート殺しの容疑者としてアビゲイルを目標に定めた。彼女はレイノルズに弁護を依頼する。アビゲイルとレイノルズの間には、ビジネスを越えた愛が生じるのだったが……。

無実の罪を晴らすべく、必死に事実関係を追及する女性と、怪しく立ち回る狂気の凶悪犯、それに辣腕弁護士が織り成すサスペンスとロマンスは、小気味よいテンポで進行しつつ、読者を謎解きの世界に運んでいく。そして、ラストにそれこそアッと驚くサプライズを用意するテクニックは、ムードの高まりもあって巧みだ。期待を裏切らないマーゴリンの手腕が存分に楽しめる力作。


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