スカイジャック
著作名
スカイジャック
著者
トニー・ケンリック
ジャンル
サスペンス
星の数
★★★
出版社
角川文庫
原作出版
1972
備考

アニーは天井を見上げ「ウーッ」と歯ぎしりして言うと、鍵を開けて中に入り、ドアをガチャンと閉めた。だが1秒後にまたドアを開けると、階段に向かって喚いた。
「あなたと結婚した日は私の生涯最高の日だったのに」
「ぼくは生涯最低の日だったよ」ベレッカーは踊り場から叫び返した。
「ベレッカー、私、いまでも思ってるんだけど、私たちの結婚にも一つだけいいことがあったわね、それだけはいつまでも大事にのこしておかなくちゃ」
「何だい、それは」とベレッカーはしぶしぶたずねた。
「離婚したこと」
二つのドアは、二台の大砲の礼砲の音のように同時にガチャンと閉まった。

ウィリアム・ベレッカーは弁護士を開業している。アニーは、結婚前は彼の会社で彼の秘書をしていて、結婚後も彼の秘書をつとめていたが、じつは、離婚後の現在も彼の秘書なのである。
それというのも、離婚してすぐ、ベレッカーが、
「秘書を雇いたいんだが、だれかいい女をしらないか」
と電話をかけてきたとき、アニーは、討てば響くように、
「知ってるわ」
と答え、自分を売り込んできたのだ。これには、さすがのベレッカーも呆れたが、アニーのほうはぜんぜん意に介せず、それこそケロッとした表情で言ったものだ。
「つまり上役としてのあなたは、いい人なのよ。ダメなのは、夫としてのあなたなの」


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