アリバイのA
著作名
アリバイのA
著者
スー・グラフトン
ジャンル
女性私立探偵
星の数
★★★
出版社
ハヤカワ文庫
原作出版
1987
備考

チャーリーに抱かれるのは、大きなぽかぽかの温熱器に入れられるような気分だった。
なにも要求されなかった。
すべて流れるようにすらすらとことは運んだ。
気まずい瞬間は一度もなかった。
ひるみ、恥じらい、ためらわせるようなぎこちなさもまったく感じなかった。
ふたりのあいだの溝がなくなり、寄せては返す波のように互いに求め合うエネルギーが交錯した。
わたしたちは一度ならず愛し合った。
最初は、貪り会うような欲望のぶつかり合い。
お互いに激しく渇きをいやそうとするばかりで、優しさのかけらもなかった。
岩に砕ける波のように求め合い、歓喜の渦に押し上げられ、あるいは引いてゆく水のように余韻にたゆたう。
彼がわたしのなかに侵入すると、身体じゅうを槌で貫かれ、つきくだかれるような衝撃が走り、激しい興奮のうねりに身をまかすうちに、しだいにわたしの肉の防壁が崩され、瓦礫と灰だけに燃え尽きていった。
彼は片肘をついて身を起こすと、長く愛情のこもったキスをして、ふたたびもう一度わたしのなかに身を静めたが、今度は彼のゆっくりとしたペースで、木になった桃が徐々に柔らかく熟れるのを待つように、じらすような丁寧さで愛撫を繰り返した。
わたしは全身が紅潮し、身体の芯が甘く解けていくのを意識した――やがて鎮静剤のように心地よいけだるさが四肢を襲った。
行為のあとで横たわったわたしたちは、ふくみ笑いを漏らし、お互いの汗と息遣いをたしかめ合ったあと、彼はわたしの身体を包むように抱いて眠らせてくれた。
大きな腕の重みで、わたしはベッドの上で身動きがまったくとれなかった。
それでも窮屈というのではなく、むしろ安全に守られている気がした。
こうしてこの男の大きな腕にかばわれて、ぬくぬくとした隠れ場所に逃げ込んでいるかぎり、どんな危害も加えられることはない。
久しぶりにわたしは朝までぐっすりと安眠を貪った。

この本を読んでみたいと思うようになるでしょう。
――年齢32歳、離婚歴2回、南カリフォルニアのサンタ・テレサに事務所をかまえる女探偵キンジー・ミルホーン登場! 新シリーズ第一弾!


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