リディア・チン

「チャイナタウン」訳者(直良和美)あとがきより一部抜粋

ご承知のとおり、近年、推理小説の分野には、ケイ・スカーペッタ、キンジー・ミルホーン、ヴィク・ウォーショースキーなど、数多くの女性主人公が登場した。リディアも豊かな個性をもってその仲間入りをしたといえるが、とくにふたつの点で異彩を放っている。まずは、姓からもわかるように、中国系で、時として東洋的な発想、物の見方をする点である。欧米の小説に東洋人が登場する場合、あまりにステレオタイプな描き方をされて現実との隔たりに反発を覚えることがままあるが、リディアの場合、アメリカで生まれ育ったという設定がアメリカの影響を大いに受けている現代の日本人像に彼女を近づけているのか、または作者のリサーチが行き届いているのか、違和感なしに自然に受け入れられるのである。年齢は二十八、母親や兄たちの干渉にもめげず、幼い頃から学んだテコンドーと負けず嫌いを武器に、探偵稼業に精を出している。四人の兄たちはすでに独立しているが、彼女はチャイナタウンのアパートで母親と暮らしている。というわけで、前出の三人がどちらかといえば肉親と縁が薄く、私生活においても一匹狼の様相を示すのに比して、家族と密接な繋がりを持っているのが、第二の相違点。彼女がタフであり、またそうありたいと頑張っているのは事実だが、いっぽうで母親に、さっさと結婚しろだの、食器の洗い方が悪いだのと小言を言われているのを読むと、何やらほのぼのとして、身近な存在に感じられる。この母親がなかなかの名脇役で、出番は少ないながら、思わずくすりと笑いたくなる味があるし、きかんきで、気が強いリディアがふと見せる優しさ、心の揺れには、等身大の人間として共感を覚える。

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