リュウ・アーチャー

「ミステリーは眠りを殺す」(「ぼくらはカルチャー探偵団」角川文庫)より

作家の作り上げるヒーロー像は、その作家の性格の反映でしかない。ロス・マクドナルドのヒーロー、リュウ・アーチャーが暗くて、ボソボソしているのは、その作者の性格のためであろう。ここには、カリフォルニアといっても、明るい陽光とオレンジ実るというカリフォルニアではなく、サンタアナと呼ばれる太平洋から吹きつける季節風と、不景気、そして複雑な人間模様だらけの、カリフォルニアしかないのだ。

片岡義夫さんは、このリュウ・アーチャー・シリーズのどこかに好もしさを感じ、自身のアーロン・マッケルウェイ・シリーズの一つのヒントを得たと語っているが、どう読んでもわがアーロン・マッケルウェイの方が明るい。無口な二十一歳の、水しか飲まない探偵であっても、リュウ・アーチャーよりは、ハッピーなのである。しかし、この暗さが戦後を逆にシンボルしているとも言えるのだ。物事に明暗があるように、リュウ・アーチャーの暗さは、ひなたの石を手で持ち上げた時に、裏側のジメジメした部分に小さな虫がうごめいているのと、似ていよう。で、日なたも、じめじめした裏側も、現実なのである。ロス・マクドナルドの作品は、前期と後期では大きな違いがある。ヒーローのヒーローらしさ、たとえそれが暗くても、を味わうのであれば、前期のものがいいだろう。

1914年から20年の間に生まれる。6フィート2インチ、190ポンド。黒髪で目は青。若いときはポール・ニューマンに、後にはブライアン・キースに似た風貌になる。1949年、妻スーと別れる。ウエスト・ロスアンジェルスのアパートの二階に住み、オフィスはサンセット・ブルーバード8411 1/2。車はフォードで、ピストルは38口径リボルバー。時に32口径や38口径のオートマチックも使用する。当初は一日五〇ドル・プラス必要経費が料金であったが、1960年頃から一日百ドルに値上がりする。ロス・マクドナルドの作り出したヒーローであり、カリフォルニアっぽい私立探偵。

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