ドーヴァー警部

「海外ミステリ・ガイド」仁賀克雄著(1987)より一部抜粋

ジョイス・ポーターの「ドーヴァー1」(1964)で登場した。スコットランド・ヤード犯罪捜査課主任警部というといかめしいが、身長六フィート二インチ(188センチ)、体重二三八ポンド(110キロ)の大男で、巨腹には脂肪がだぶつき、幅広く青白い顔には、薄い黒髪、小さなボタンみたいなドングリ眼、団子鼻、不機嫌なバラの蕾のようなおちょぼ口に総入れ歯、二重顎、鼻下にはアドルフ・ヒトラー以来すっかり不人気のチョビ髭を生やした醜男。

その上、陰険でケチで欲ばり、無神経で意地悪、頑固で嫉妬深く、かんしゃく持ちで間が抜けているときている。他人の金で大酒を飲み、大食いをすることと、眠るのが趣味。金のかからない趣味である。古い紺サージの制服にだぶだぶの黒オーバーを着て、くたびれた山高帽、頑丈が取り柄の黒長靴をはいている。

作者はドーヴァーを史上最低の迷探偵に仕立て、ユーモア・ミステリとしての成功は、このキャラクター作りに負うところが大きい。どうしてこんなドーヴァーがスコットランド・ヤードにいるかといえば、管内の各署から厄介払いで押し付けられたのである。その捜査方法がすごい。事件の犯人が不明だと、だれかれかまわず逮捕し、容疑者を白状させるためには拷問もいとわない。この無茶苦茶ぶりに被害を受けるのが部下のマクレガー部長刑事。彼が苦労して解決した事件の手柄は、すべて上司ドーヴァーに横取りされてしまうのだ。こんなドーヴァー警部だが、徹底した極端さがユーモラスであり、そこに独特の個性がある。一度読んだら忘れられない迷探偵である。

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