クルト・ヴァランダー

「目くらましの道」 解説 杉江松恋より一部抜粋

イースタ警察署(スコーネ県)
クルト・ヴァランダー

『殺人者の顔』1947年11月21日生まれで、イースタの中央にあるマリアガータンに住んでいる。初登場の三ヶ月前、妻が家を出て行き、やがて離婚に至った。一人娘のリンダはこの時十九歳で、ストックホルム郊外の学校に通っていたが、やがて演劇に傾倒するなどして進路希望がふらつくようになり、ヴァランダーを心配させる。家族は他に父親と、姉のクリスティーナ。父親は商業画家で、一貫して秋の湖を題材にした絵を描き続けた。ときどき「切り株にとまっているキバシオオライチョウ」が描きこまれること以外は、いつもまったく同じ構図である。父親は息子が警官になるのを好ましく思っていなかった形跡があり、ヴァランダーはいつも彼との付き合い方に困っている。『白い雌ライオン』で父親はホームヘルパーのイェートルード・アンダーソンと結婚した。

ヴァランダーの一家はかつて、マルメ郊外のクラーグスハムヌで、鍛冶屋の家を改造した家に住んでいた。彼は新人警察官だった二十三歳のとき、このマルメの町をパトロール中に危うく死にかけたことがある。ピルダムスパルケンで酔っ払いの男を車に乗せようとして肉切り包丁で切りつけられたのである。傷は心臓のすぐそばまで達し、あと数ミリ刃先が横にそれていたらその場で死ぬところだった。そのときに自分でひねりだしたのが<死ぬのも生きることのうち>という戯言である。

初登場時には飲酒癖(酒気帯び運転で捕まりかけたことがある)と体重増加、そして鬱の症状に悩まされていたが、かなり健常状態に戻ってきた印象がある。しかし事件捜査中に突然独断で単身行動をすることがあり、元KGBのコノヴァレンコを追い始めたときには周囲の人間がヴァランダーは発狂したと思ったほどだった。夜中に電話で起こされると「起きていた」と必ず答えるなど、ヴァランダー自身でも説明のつかないへそ曲がりなところがあったが(『殺人者の顔』)、それも変わってきた模様(『目くらましの道』)。離婚後鬱屈を抱えていたためか、検察官のアネッテ・ブロリンに言い寄るなど不穏な行動もあったが(『殺人者の顔』)、現在はラトヴィア共和国のリガに住むバイバ・リエパと遠距離交際中。ちなみにアネッテは人妻で、バイバは寡婦だ。人妻好きなのか? なお『リガの犬たち』で愛車がプジョーであることが判明したが『笑う男』で爆破された。

リードベリ
『殺人者の顔』リューマチ持ちで杖が手放せないが、いースタ警察署一のベテラン刑事で、ヴァランダーにとっては事件捜査の師というべき人物だった。1991年1月に癌のため死亡したが(『リガの犬たち』)ヴァランダーは今でも行き詰まると心中で彼に相談することがある。
スヴェードベリ
『殺人者の顔』で登場。『リガの犬たち』の外見描写によれば、毛の生え際がかなり後退している四十男。『目くらましの道』ではそのために頭頂部が真っ赤に日焼けしていた。父親はパン屋。母は婦人帽子の仕立て屋で、生粋のイースタっ子。口の悪い者には「イースタの町の境界線を越えただけでホームシックにかかる」と笑われるほどだ。『白い雌ライオン』で極度の暗闇恐怖症であることが判った。実は警察官になったのも「自分の個人的な勇気を奮い立たせることで」暗闇恐怖症に打ち勝てるのではないかと思ったためだった。『目くらましの道』でアブが嫌いで見るとパニックに陥ることや、アメリカ先住民の話に興味を持っていた時期があることが判明。奥行きの深い人物のようだ。一見怠け者で仕事にあまり熱心ではないような印象を与えるが、実はその仕事は正確なので、ヴァランダーは彼を高く評価している。
マーティンソン
『殺人者の顔』では、実習中の若い巡査として登場。リカルドという名前の子供が水疱瘡にかかったため勝手に帰宅し、捜査会議をすっぽかした。このとき以外にもよく行方不明になることがあり、ヴァランダーを時にいらだたせる。また、芝居じみた態度もヴァランダーには気に入らない。(『リガの犬たち』)。こうした欠点はあるが、時としていいアイディアを思いつくことがあり、ヴァランダーはそれなりに高く評価している。『リガの犬たち』で明かされたプロフィールによれば、スウェーデン西海岸近くのトロルヘッタン生まれ。まだ三十前だが野心的で、有力政党の穏健党党員でもある。署内では1991年秋の地方選挙で自治体議会の議員になると噂されたこともあった。なぜかいつも風邪気味で、ヴァランダーは、風を引いていないマーティンソンに会ったことがあるだろうかと思っている(『笑う男』)。
ビュルク
『殺人者の顔』イースタ署の署長だが、事件発生当時は休暇のため不在だった。『リガの犬たち』で個々の警察官の捜査活動に口出しをしないと評価されている。ただし短気で、事なかれ主義のところがある。独断専行のヴァランダーに悩まされたためか、『白い雌ライオン』では胆石の発作で突然入院した。『笑う男』で、ヴァランダーのプジョーが爆破された件でマルメ警察に早朝に起こされ、ひげを剃らずに出勤してきて、以外にひげが濃かったことにびっくりされている。『目くらましの道』でイースタ警察署を退職し、マルメで出入国管理局のトップとして働くことになった。
ハンソン
『殺人者の顔』で勤務時間中も競馬の予想をしている賭博狂の刑事として登場。しかし後に心を入れ替え、きっぱりと止める。出世欲もあり、『笑う男』ではハルムスタでコンピュータを使った犯罪捜査技術に関する講習会参加のために不在だった。そのためか『目くらましの道』ではビュルクに替わってしばらく署長代理を務めたが、重責に押しつぶされそうになった。『白い雌ライオン』では脚の骨を折って休暇中。ヴァランダーの次の古株だったが、粗暴なうえ不器用なところがあり彼とはあまり折り合いがよくない。ただし仕事は徹底していて根気強く、捜査が暗礁に乗り上げたときなど、思いがけない分析をして同僚たちを驚かせることもあるという。
トーマス・ネスルンド
『殺人者の顔』でルーヴグレン夫妻殺人事件に専念したヴァランダーに代わって押し込み強盗事件を担当。ヴァランダーに気に入られていたが、故郷ゴットランド県に帰りたいという希望が強く、『白い雌ライオン』でヴィスビー署に転勤してしまった。
ペータースとノレーン
『殺人者の顔』で登場。酔払い運転中のヴァランダーを発見し、その事実をもみ消した。二人で行動することが多かったのは、マルティン・ベック・シリーズに出てくるコメディ・リリーフの制服警官クヴァントとクリスチャンソンを模したものか。ペータースはラブラドールを飼っていて『白い雌ライオン』でマーティンソンに子犬をやると約束した。
エッバ
『殺人者の顔』で初登場。イースタ署の交換手を務める女性で、だらしない子供のようなヴァランダーの面倒をよく見てくれる。『目くらましの道』では、自宅の風呂場で転び手首を骨折したため一時不在。
スヴェン・ニーべり
『白い雌ライオン』で初登場した鑑識員。マルメ署から転勤してきた。取っつきが悪く、無口で人間関係が下手だが、敏腕。ヴァランダーは全幅の信頼を寄せている。
アン=ブリット・フーグルンド
『笑う男』で初登場。イースタ署としては初の女性刑事で、ハンソンに煙たがられる。両親が新教のピングスト教会の信徒で牧師を目指していたが、ある出来がもとで警察官を志した。イースタ近郊のスヴァルテ出身で、子供のときにストックホルム近郊に引っ越した。警察学校卒業時に成績優秀者に与えられる賞を受けた二人の学生の一人で、全国の警察区から望まれたが、出身地のイースタで働くことを希望してやって来た。ヴァランダーにとっては弟子のような存在だが、彼はフーグルンドの中にいつかリードベリのようになるだろうという才能を見出している。既婚者。
リーサ・ホルゲソン
『目くらましの道』ビュルクの後任としてイースタ署の署長になった女性警官。スモーランド地方の小都市から転勤してきた。
エングマン
『白い雌ライオン』研修期間中のアシスタントでまったくの新人。ヴァランダーともにスティーグ・グスタフソンの逮捕に向かった。
ペッレ
『殺人者の顔』ネスルンドとともに、モンソンという男の起こした強盗事件を担当していた。
エスキルソン
『目くらましの道』シッテという警察犬を連れ、アルネ・カールマン殺害現場に来た。
ティレーン
『目くらましの道」短髪で、研修中の警察官。ヴァランダーは彼が優秀だと聞き及んでいる。
イースタ検事局
アネッテ・ブロリン
『殺人者の顔』休職中のペール・オーケンソンの代行検事としてヴァランダーと行動をともにした。『目くらましの道』で、その後ストックホルムで弁護士になったことが判る。
ペール・オーケンソン
『殺人者の顔』ヴァランダーとはいい関係を保っている検事で、この事件当時は昇進のための特別教育を受けていた。『目くらましの道』検事局以外で働いてみたいという欲求が抑えきれなくなり、九月からウガンダで難民に関する仕事を一年間することになった。だが、そのことを妻に打ち明けられずにいる。
ルンド警察署(スコーネ県)
カッレ・エンべり
『殺人者の顔』ヴァランダーがヴァルフリド・ストルムの身柄拘束をするのに同行した。
ヘスレホルム警察署(スコーネ県)
ムルク
『目くらましの道』退職したヒューゴ・サンディンという警官についての情報を提供した。
マルメ警察署(スコーネ県)
ロースルンド
『笑う男』ヴァランダーのプジョーが何者かに爆破された件を担当した。
マグヌス・スタファンソン
『笑う男』ラース・ボーマンの自殺事件を担当した。
ステン・フォースフェルト
『目くらましの道』ビュルン・フレードマンの身元を確認した。
シムリスハムヌ警察署(スコーネ県)
トーステン・スンドストルム
『笑う男』ヴァランダーの父親が町で喧嘩をして相手を殴った事件を担当した。まもなく定年を迎える気のいい男で、昔気質の警察官とのこと。
ヘルシングボリ警察署(スコーネ県)
ヴァルデマール・シューステン
『目くらましの道』オーケ・リリエグレンの殺人事件を担当。ヴァランダーとは八〇年代に大掛かりな麻薬捜査で一緒に行動したことがある。
スツーレ・ビリエールソン
『目くらましの道』シューステンの上司にあたる警視。ヴァランダーは、彼がねたみというものをほとんど抱かない模範的な警察官だと称賛している。
ラーソン
『目くらましの道』シューステンの同僚で有力証人のレナート・ハイネマンを発見した。
スツールルップ空港警察官詰め所(スコーネ県)
ヴァルデマールソン
『目くらましの道』ビュルン・フレードマンの殺害場所になったバンを発見した。
クリシャンスタ警察署(スコーネ県)
ユーラン・ボーマン
『殺人者の顔』ヴァランダーと同年輩でかねてから交流があり、ルーヴグレン夫妻の殺害事件で協力した。
ストックホルム警察署(ストックホルム県)
スツーレ・ルンルンドとバッティル・ロヴェーン
『リガの犬たち』ルンルンドは麻薬捜査課でロヴェーンは暴力捜査課。イースタの海岸に漂着した死体の捜査のために派遣されてきた。五十代で二人はよく似ている。ロヴェーンはこの事件の捜査中インフルエンザに罹患した。『白い雌ライオン』で、ロヴェーンは再登場し、元KGBのコノヴァレンコが引き起こした銀行強盗事件の捜査担当として、ヴァランダーに協力した。ヴァランダーは彼を優秀な警察官と記憶していた。
クラース・テングブラード
『白い雌ライオン』銀行強盗をして逃走するコノヴァレンコに射殺された。二十六歳で二児の父だった。
ステンベリ
『白い雌ライオン』テングブラードが射殺された強盗事件の捜査主任を務めた。
ルドヴィグソンとハムレーン
『目くらましの道』長引く連続殺人への捜査協力のためイースタに派遣されてきた。ヴァランダーはルドヴィグソンとは面識があった。体の大きな頑丈な男で、おそらくは高血圧である。ハムレーンは小柄で痩せていて、厚い眼鏡をかけている。
ウステルマルム地区警察署(ストックホルム県)
ハンス・ヴィカンダー
グスタフ・ヴェッテルステッドの死を母親に告げた。
カルマール警察署(カルマール県)
プロムストランド
『白い雌ライオン』コノヴァレンコのアジトであった家の捜査責任者。彼の妻はロシア語を勉強していたため、ヴァランダーはコノヴァレンコの遺した文書の翻訳を依頼した。
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