R・ダニール・オリヴォー

「名探偵ベスト101」村上貴史 編(2004)より一部抜粋

R・ダニール・オリヴォーのRとは、ロボットの略である。そう、彼はロボットなのだ。外見がいかに人間そっくりであろうとも、そして、物語の舞台が、地球人が銀河の星々に進出しているというような未来であろうとも、所詮ロボットはロボット。人間が教えたことに従ってしか動くことの出来ない存在なのである。
そんな存在に探偵役が務まるのか。

ロボットの記憶力は抜群だが、推理という知的な飛躍を伴う創造活動を行えるのか。

そうした問に、R・ダニールは自らの行動によって回答を示した。

「可能である」という回答を。

とはいえ、彼も一朝一夕に探偵役としての力を備えたわけではない。『鋼鉄都市』において宇宙人(スペーサー)殺人事件の捜査をするために地球に派遣されてきた時点では、地球の刑事イライジャ・ベイリのワトスン役を務めたに過ぎない。第二長編『はだかの太陽』や第三長編『夜明けのロボット』でも、事件を解決したのはベイリであってダニールではない。しかしながら、ベイリが死んでから約二百年が経過した世界を舞台にした第四長編『ロボットと帝国』において、ダニールはついに探偵役へと進化するのである。

その物語においてダニールは、地球に対する攻撃を察知し、相棒のロボット・ジスカルドとともに地球を守ろうと奮戦する。地球攻撃に関する様々な情報を収集し、それをもとにロジカルな思考を重ねることで、陰謀を企む者の秘密兵器の正体を探り出そうとするのだ。まさに、探偵が関係者を訪ね歩いて証言を集め、真相を推理するような活動をダニールは行うのである。

そこに至るまでには、ベイリの相棒として人間観察の経験を積み、さらに刑事の発想法を習得する必要があった。例えば、『鋼鉄都市』でベイリと出会ったばかりのダニールは人間に銃を向けるという一見破天荒な行動をとったが、それはあくまでロボット三原則に則った行動であった。それが、ベイリとの交流を深めた後の『はだかの太陽』では、人間がロボットに与えた命令の絶対性という檻を抜け出そうとするようになり、さらに『ロボットと帝国』に至っては、あらゆるロボットが従うべき「ロボット三原則」すら逸脱しようとあがいているのだ。それもこれも、事件を解決に導くために。

多くの探偵たちの行動を束縛する「内なる規範」や精神的/肉体的な外傷より遥かに拘束力の強い「ロボットである」という密室を抜け出し、一人のロボットが探偵として成長していく姿を描いたビルドゥングスロマン――そんな風にこのシリーズを捉えてみるのも、また愉しい。

(村上貴史)

ダニールを束縛するロボット三原則とは、

  1. ロボットは人間に危害を加えてはならない。また、その危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない。
  2. ロボットは人間にあたえられた命令に服従しなければならない。ただし、あたえられた命令が、第一条に反する場合は、この限りでない。
  3. ロボットは、前掲第一条および第二条に反するおそれのないかぎり、自己をまもらなければならない。

というルールである。
アシモフと編集者との会話から生まれたものだそうだが、その思想は、他の作家のものを含め、あらゆるロボット小説に及んでいると言えよう。

さて、SF作家アシモフは『黒後家蜘蛛の会』シリーズでも有名な優れた「ミステリ作家」でもある。その資質は、同シリーズだけではなく、銀河帝国の興亡を描いたファウンデーションシリーズなどのSFでも活かされている。そちらでも伏線の妙と驚愕を愉しまれたい。

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