フィリップ・マーロウ

「海外ミステリ・ガイド」仁賀克雄著(1987)より一部抜粋

フィリップ・マーロウ

古今東西の探偵(警官も含む)のうちで、だれが一番好きかというアンケートをミステリの愛読者から取れば、上位にくるのはフィリップ・マーロウであろう。男性にも女性にも人気がある名探偵といえば、ホームズ以外にマーロウしかいない。本格ミステリの名探偵はほとんど天才か超人、あるいは奇人・変人であるのに比べ、ハードボイルドの私立探偵は読者が感情移入できる人物で、マーロウはどの代表である。

それは当然のことながら作者のレイモンド・チャンドラーの人気に寄る。1939年「大いなる眠り」で登場したマーロウは、カリフォルニア州サンタ・ローザに生まれ、カレッジ卒業後、地方検事局の捜査官となったが、上司に反抗して、馘になり、ロサンゼルスに私立探偵事務所を開いた。1906年ごろの生まれで、当時三十三歳、身長6フィート(183センチ)、体重193ポンド(87キロ)。黒い髪に褐色の眼、ハスキーな声音、色白の好男子である。しかし一日25ドルの日当と実費というわずかな生活費で暮らす貧乏探偵である。

ハメットの探偵よりずっと都会的で洗練されているが、同時に近代人の孤独、憂愁、感傷も持ち合わせている。暗黒街を独り往くタフで非情な外見と裏腹な、繊細な、やさしい内面が、ハードボイルドの仮面の陰から見え隠れするところに読者はひかれるのである。趣味はチェス、読書、映画とおとなしく、煙草はキャメルを愛用するヘビー・スモーカー。酒はスコッチ、バーボンに、カクテルのギムレットを好む。

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