サム・スペード

「海外ミステリ・ガイド」仁賀克雄著(1987)より一部抜粋

サム・スペード

ヴァン・ダインやクイーンと同時代に、アメリカでは全く新しいタイプの名探偵が生まれた。ダシール・ハメットの創造した、コンチネンタル・オプとサム・スペードである。それまでの思索型のインテリ探偵から、行動派の腕ぷしの強い探偵の登場である。現実の暗黒街を舞台にしたハードボイルドは、それにふさわしい私立探偵を必要とした。

サム・スペードはオプよりもタフで好色で狡智な男である。「マルタの鷹」(1930)で登場した彼は、身長は6フィート(183センチ)以上あり、体重は185ポンド(84キロ)。胸の厚さと肩幅が同じくらいで逆円錐形の体格をしている。顔は灰色の眼にカギ鼻、濃い眉、薄茶色の髪、顎がV字型に尖っている。ブロンドのサタンを思わす顔といわれる。自らに課した信条を曲げず行動する私立探偵スペードは、決して正義の味方ではない。権力にも悪にも屈しないのは自己の価値観のせいで、正義感からでないところが、ハードボイルド探偵の面白いところであろう。

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