ドルリイ・レーン

「海外ミステリ・ガイド」仁賀克雄著(1987)より一部抜粋

作家のエラリイ・クイーンはバーナビイ・ロスの別名で、1932年に「Xの悲劇」を発表した。このシリーズは「Yの悲劇」「Zの悲劇」「最後の事件」と四部作で完結しているが、登場する探偵はドルリイ・レーンである。クイーン探偵より印象深い人物で、アメリカの探偵にしては珍しい渋みがある。

レーンは元シェイクスピア劇の名優で、いまは隠退し、ニューヨーク郊外のハドソン河畔のハムレット山荘に住む。聴覚を失い六十歳を越しており、白髪は首筋まで垂れているが、筋肉は日焼けしてひきしまり、顔には皺ひとつなく、鋭く深みのある灰緑色の両眼にはまるで老年の影がない。読唇術ができるので会話には差し支えなく、舞台で鍛えた声はよく通り変装の名人でもある。地方検事ブルーノやサム警部の捜査協力の依頼には、その深い知恵を傾ける。現実も彼にとっては芝居の舞台と同じなのだ。この千両役者も最後の事件では悲劇的な死を遂げ、生涯の幕を閉じるのである。

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