ワキが甘いは駄小説

別冊宝島63「ミステリーの友(ミステリー・グルメになるためのメニュー)」より

内藤陳オススメのワキ役固めのベストテン!

良い小説や一流の映画が生まれる第2番目の条件は、ワキ役が生きているかどうかである。

ある時は主役を喰い、ある面ではヒロインでさえ心を奪われ、ふと漏らすひと言やさり気ない立ち居振るまいに己の全人生を垣間見せる、そんな存在感あるワキ役がいてこそ、作品(ヒーロー)はボクらの胸に深く残ってゆくのだ。

悪役にしたってそうサ。戦う前からカチが見える、ギラギラ輝く悪の魅力(ハクリョク)がない。艱難辛苦金城鉄壁鵜目鷹目権謀術策常時完備、宿敵に塩を贈っては傷口になすり込む、そうこなくちゃヒーローは育たないのだ。わが日本軍、イマイチ無念と涙するのもそこらあたりに……。

サァーテ、紙数(イノチ)尽きるまで、イッテみるぜ“ワキ役固めベストテン”だッ!

まずコレ。“彼は体を震わせたように見えた――次の瞬間、小さな拳銃(S&W38)が私を狙っていた。左手に持ったグラスは微動もしなかった”アル中のガンマンにしてプロ中のプロ、ギャビン・ライアル『深夜プラス1』よりハーヴェイ・ロヴェル。彼は、ある実業家をリヒテンシュタインまで護送する仕事を、ルイス・ケイン(ムッシュ・カントン)と共に引き受けた。それぞれが認めるスゴ腕同士だが無敵ではない。敵は全ヨーロッパNo.1、No.2の殺し屋(ガンマン)が待ち構えている。飲んではならぬ酒だった、飲まずにいられぬ酒だった――。

しかもケインとロヴェルの間には互いのウデを認めながらもなお“対立”がある。いつ切れてもおかしくない危うい絆なのだ。“呉越同シトロエン”なのだ。だが彼らには、捨てきれぬ誰にも奪うことのできない、男(プロ)としての誇りがある、もうひとりの自分へのこだわりがある。

まだいるぞ。「シャンペンは昼食時間を過ぎると女の子の飲み物だ」の名言を残した、こすっからしいが妙(ユニーク)な魅力と人気のある老将軍フェイ。火の玉小僧のプロ根性ならアラン。女性軍それぞれに燃ゆる想いと恋ゴコロ。本書に胸をウタレぬ奴は生まれながらにしてハートを失っているのである!

ジャック・ヒギンズ『鷲は舞い降りた』からは、IRAの戦士にして大学教授リーアム・デヴリン。「この世界は、神様が二日酔いの朝に創ったお笑い草だ」と口元に皮肉な笑みを浮かべながら、大胆不敵、ドイツ軍によるチャーチル誘拐作戦のため単身大英帝国へと潜入する。ブッシュミルズ(アイルランドの酒)を見つけては狂喜し、心ならずも恋をしてしまったイギリス娘にそっと手紙を置いて旅立つロマンの騎士。デヴリンこそヒギンズの想いがこめられた永遠の冒険者なのだ。

アリステア・マクリーンなら『ナバロンの要塞』に登場する“ふけつ”のミラーとアンドレアの異能ハミ出しコンビはもちろんだが、ここでは『女王陛下のユリシーズ号』の乗組員全員を挙げてみたい。厳寒真冬の北極海の戦場に雄々しく立ち向かう彼らは“神がいち艦長にさずけた最高の乗組員だった”のである。燃えさかる重油の海で真っ黒になりながらも感謝の投げキッスを送って死んでゆく男を初めとして、平和時なら“名もなき者”の一生を終えるはずの男たちが、いまセイいっぱい輝く。彼らはワキ役ではあるが、あるシーンではそれぞれが完全な主役なのだ。願わくばマクリーン様よ、今いちどあの輝きを……と平伏。

さて、ハードボイルド。こちらはどちらかと言うと、“受け”タイプの主人公が多いので、当然重要なのがワキ役である。冒険小説はある程度ストーリィでもってくこともできるが、ハードボイルドとは様々なワキ役に出会いつつ進んでゆく物語なのだ。

チャンドラーだったら『長いお別れ』の、「ギムレットには早すぎる」テリー・レノックスもいいが、愚鈍な大男、ムース・マロイが最高だ。長いツトメを終えて出てきたマロイ、一途に思って思いつめてやっと会えるはずの『さらば愛しき女よ』は今何処に……。ネオンを見上げる姿は“女”以上に愛しいのである。

ロバート・B・パーカー“スペンサー探偵”シリーズなら何をおいてもまずホーク。ピカピカのツルツル黒頭でヌーッと登場するだけで、場の空気がガラッと変わるヤツだ。スーザンが去ったばかりにやたら愚図愚図グチっぽくなったスペンサーにホークは言う。「スーザンどうした? 男がいるのか?」で一言「殺してやろうか」なのである。あえて言うならパーカーよ、ホーク文体でスペンサーを描いてほしい。今陳メはセツにそう思っているのだ。

エド・マク“87分署”の警官たちはみんないいが、何たって光るのはマイヤー・マイヤー。彼のいない分署なんかどんなに寂しいことか。

まだまだ、もう一本こい! J・クラムリー『ダンシング・ベア』のアル中の元弁護士、老サイモン。ポロック『樹海戦線』のベトナム帰りでいつも口の中にカミソリの刃をのんでるピート・ノヴァック。おーっと待ちな、日本軍、北方謙三『檻』をはじめ諸作に登場、ゴロワースとジッポに鼻歌とくりゃ高樹警部!

ナニ、ベスト10をハミ出たって!? 当り前だヨ、10ですんじゃうような世界だったらテンからお断り、陳メ、死ぬまで酒くらってオサラバするぜーっ!

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