白夜に惑う夏
著作名
白夜に惑う夏
著者
アン・クリーヴス
ジャンル
警察ミステリ
星の数
★★★★
出版社
創元推理文庫
原作出版
2008
備考
あとがきより

ペレス警部は、前作の事件で知り合った女性画家フラン・ハンターとともに、ビディスタという町で開かれる絵画展に出かけた。それはフランと、ベラ・シンクレアというもうひとりの画家との共同展覧会だったが、フランはともかくベラは有名画家であるにもかかわらず、どういうわけか会場に訪問客の姿は疎ら。その場でペレスは、絵の前で奇妙な振る舞いを示す男を目撃する。ペレスは男に事情を問いかけたが、相手は自分が記憶を失っていて、どうしてそんなことをしたかも、自分が何者なのかもわからないと言い、ペレスが目を離した隙に会場から姿を消してしまった。

翌朝、桟橋近くの小屋で首吊り死体が発見される。道化師の仮面をつけていたその遺体は、ペレスが前夜声をかけたあの男だった。検死によって、自殺ではなく他殺と判明。ペレスは本土からやってきたテイラー主任警部と再びコンビを組んで捜査にあたる。しかし、島では二人目の死者がでて……。

本土の人間であるテイラー主任警部が内心「ここは、秘密をもつことなどできないところだった。例の男を殺した犯人を住民が誰も知らないなんて、とても信じられなかった」と考えるように、古くからの住民たちは互いのことを知り尽くしているかのように見える。それはまるで、四六時中すべてが照らし出される白夜のような状況だ。しかし、旧知の間柄だからこそ、逆説的に人びとは秘密をつくりたがるという面もある。「聞くところによると、あなたはビディスタの住人のほとんどと幼馴染みだそうですね。誰よりも、かれらについてくわしいはずだ。人を殺しておいて、翌日、しれっと嘘をつける人物といったら、誰が思い浮かびますか?」というテイラーの質問に対し、ある住人は、こんなふうにかたまって暮らしてると、他人をあまり穿鑿したりしないんだ。おたがい相手の気に障らないようにする。みんないっしょに暮らしていかなきゃならないし、誰だって自分だけの世界がいくらか必要だ。いってることがわかるかな?」と答える。また、別の住人も、テイラーから「どういう感じなんですか(中略)こういう土地で育つというのは、わたしにはどうもぴんとこなくて。みんなに自分のことを知られているわけですよね」と言われて、「あら、みんなちょっとずつ秘密をもっているのよ。でなければ、とても正気ではいられないわ」と答える。これは、人口二万二千人の島の中の、更に小さな町だからこその感覚だろう。

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