訳者(木村裕美)あとがきより
地中海を見おろす崖上の望楼、その塔内で壁画制作にとりくむ元カメラマンのもとに、ある日、見知らぬ男が訪ねてくる。十年まえ、戦火のなかで写真を撮られたというクロアチアの元民兵だった。ぼくを有名にしてくれたカメラマンに会いたくて、あなたを何年もさがしまわったと男は言う。なぜそこまでしてわたしに会いたかったのか、そう問う画家にたいして、訪問者は答える。「あなたを殺すためですよ」
予告された殺人――未完の戦争画を背景に、チェスの駒がゆっくり盤上を進んでいくように、主人公フォルケスと訪問者マルコヴィッチの対話が進行する。観客となった読者は、はたして、どこにつれていかれるのか……?