狡猾なる死神よ
著作名
狡猾なる死神よ
著者
サラ・スチュアート・テイラー
ジャンル
ミステリ
星の数
★★★
出版社
創元推理文庫
原作出版
2003
備考

それは奇妙なモニュメントだった。舟の中に横たわる若い女の裸体。見下ろす死神のまなざしはやさしく、骨の口もとには愛しげな微笑すら漂っている。墓石の芸術という、一風変わった研究をしているスウィーニーは、友人の誘いで、そのモニュメントのあるかつての芸術家村を訪れる。だが墓石の謎を追う彼女の行く手に、殺人事件が立ちはだかる。死と象徴に満ちた新シリーズ開幕。

訳者(野口百合子)あとがきより

本書の最大の魅力であるそのユニークな主人公、スウィーニー・セント・ジョージは、ハーバード大学芸術・建築史学科の助教授をつとめる二十八歳。背が高く、赤毛で、たいていはヴィンテージの古着を身につけています。高名な画家だった父親は彼女が子どものころに自殺し、売れない女優だった母親とは疎遠な間柄という、孤独な生涯です。そして、英国留学時代にできた恋人を地下鉄テロ事件で亡くし、心に深い傷を負っています。いまは前向きに生きようとしながらも、死につきまとわれているような気がして生活は閉じこもりがち。でも、友人のトビーに奇妙な墓の写真を見せられ、好奇心をかきたてられた彼女は、クリスマス休暇にその墓のあるかつての芸術家村へ出かけていきます。

墓の下に葬られているのは、1890年に十八歳で亡くなった少女メアリー・デンホルム。魅力的な容姿の持ち主で、画家たちのモデルをしていました。死神のもとで舟の中に横たわる裸の彼女が彫られた墓は、当時の墓石美術とは合致しないラファエル前派の影響が色濃く見られるものでした。そして、一流の彫刻家の作品と思われるのに、作者は不詳。しかも、溺死したとされるメアリーは、じつは殺されたのかもしれないという可能性が浮上してきました。この謎に魅せられたスウィーニーは墓の作者探しを始めますが、やがて過去への探索は現代の殺人事件へと結びついていきます。

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