13のショック
著作名
13のショック
著者
リチャード・マシスン
ジャンル
ホラー短篇
星の数
★★★
出版社
早川書房
原作出版
1961
備考
評論家「尾之上浩司」解説より

「ノアの子孫」
 これが書かれた1950年代には、アメリカはいたるところに未開の場所があり、辺鄙で怪しげな田舎町や村落にまつわる都市伝説が語られていたものである。それに、さらに同時代の殺人鬼エド・ゲインによる猟奇事件のイメージも取り込んだようにも見える本編は、ロバート・ブロックの『サイコ』やトビー・フーパー監督の≪悪魔のいけにえ≫の先駆けといえる。

「レミング」
 完成度の高さでは本書でもいちばんの出来の逸品。このアイデアは一発ネタの最たるもので、もはや誰も流用できないだろう。

「顔」
 ミステリ雑誌に発表されただけに、異様な状況の説明から謎解きへと展開する構成がとられているが、それが切れ味鋭く描かれていて読者の心に暗い影を落とすことは確実。トラウマがもとでの児童虐待という、現代的なテーマをあつかっている点も見逃せない。

「長距離電話」
 異色作家なら誰もが一度は手がけているような気がする、謎の相手からの電話がもたらす恐怖というポピュラーなプロットを、マシスン流にアレンジした一篇。これは彼が積極的に脚本に参加していたテレビ≪ミステリー・ゾーン≫で、本人の脚色によりドラマ化されている。

「人生モンタージュ」
 マシスンが好んであつかうテーマのひとつに「人間の意識が世界に作用する」というものがあるが、これもその範疇に入る一本。人生の早まわしというアイデアは、発表された1959年当時よりも、生活のリズムがどんどん速くなるばかりの現代人にこそリアルな恐怖と感じられるはずだ。

「天衣無縫」
 マシスンはコメディが好きで、ときたま妙に専門的な知識をちりばめたブラック・ユーモア短編を書くことがあるのだが、これはそのなかでももっともキレている作品。実際に読んでいただく以外、説明のしようがない。

「休日の男」
 超能力の悲哀を完結にまとめた作品。原題の Holiday には“休日”のほかに“楽しい”という意味もあって皮肉がきいている。

「死者のダンス」
 マシスンの代表作『地球最後の男(吸血鬼)』はジョージ・A・ロメロ監督の≪ゾンビ≫四部作の元ネタであることはよく知られているが、マシスン自身はゾンビものをあまり書いていない。本篇は例外的な作品で、兵役経験のある作者ならではの戦争とその被害者の凄惨な姿を描ききっている。

「陰謀者の群れ」
 誰かに自分は観察されている、何者かに自分の人生が操作されている、といったパラノイアを小説に結晶化させれば、いならぶ異色作家のなかでもマシスンにかなう者はいないだろう。これはその典型的な一本だが、最近、似た事件が頻発しているような気がするのが恐ろしい。

「次元断層」
 意識が混乱し、自分のいたはずの世界観が崩壊していく。傑作「蒸発」に代表される現実認識の錯乱、アイデンティティの崩壊もまた、マシスンの十八番のテーマである。これもそのひとつだが、現実の手掛かりとして最後に頼っている相手が妻だという点が、愛妻家で知られる作者らしい。

「忍びよる恐怖」
 「天衣無縫」と同じタイプのブラックユーモアSF。作者がじつは、かなりの社会派であることがうかがえる。

「死の宇宙船」
 SFホラーとしては、本書収録作のなかでもっとも恐ろしく読みごたえのある傑作だ。これまたテレビ≪ミステリー・ゾーン≫でドラマ化されているが、マシスン自身が脚色を担当したこのドラマ版が、原作以上に内容の濃い物語にふくらまされていて、番組中でも屈指の傑作に仕上がっていた。ふくらまされていたのは登場する宇宙飛行士たちの背景と内心面で、そのアレンジの仕方はのちの長篇『地獄の家』『ある日どこかで』『奇跡の輝き』に通じるところがあった。

「種子まく男」
 ひょっとしたら本書の収録作品中もっとも古びない作品かもしれない。現実の世界でも、こういうタイプの人間は確かにいるし、いなくなることはないだろう。『ザ・キープ』のF・ポール・ウィルスンなど、本篇をマシスンの代表短篇に挙げる欧米の作家が多いのももっともだ。なかには「これは特殊なスパイものとも読める」という意見もあった。アメリカのシチュエーション・コメディやソープ・オペラ(例えていうなら≪奥様は魔女≫のようなドラマ)には、このような他人迷惑な登場人物がかならず一人まざっているもので、それをマシスン流にデフォルメしたもの、と僕は思っている。


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