グルメ探偵と幻のスパイス
著作名
グルメ探偵と幻のスパイス
著者
ピーター・キング
ジャンル
ミステリ
星の数
★★★
出版社
ハヤカワ文庫
原作出版
1997
備考
訳者(武藤崇恵)あとがきより

お待たせいたしました。おいしいものが大好き、食の薀蓄を語らせたらとまらないグルメ探偵の第二弾をお届けします。

さて、今回グルメ探偵はホームタウンのロンドンを離れ、はるばるニューヨークに遠征します。何世紀ものあいだ絶滅したと思われていたスパイスが発見され、鑑定を依頼されたのです。ところが無事大役を果たして安心したとたん、数百万ドルの価値があるスパイスが不可能としか思えない状況で消えてしまいました。そしてその直後に鑑定の相棒を務めた旧友が殺され、盗難事件と殺人事件、両方の現場にいあわせたグルメ探偵は当然第一容疑者に。誰が見てもグルメ探偵があやしいという状況で(あいかわらずとぼけているグルメ探偵は、ぼくもつい自分を疑ってしまいそうだなんていいだす始末)、必要に迫られて調査に乗りだすわけですが、どうやら命まで狙われているらしく……。

探偵といっても犯罪とは無縁のグルメ探偵、暴力なんて大の苦手だし、銃なんて持ったこともありません。そんな彼ですが、生まれて初めて犯罪捜査にかかわった前作『グルメ探偵、特別料理を盗む』よりもすこしは成長したのか、なんと今回は犯人を突きとめてしまうのです。前作を読んでくださった方はかなりビックリではないでしょうか。とはいえそう簡単にかっこいい私立探偵に変身できるはずもなく、いきあたりばったりでドジ、しかも臆病と三拍子そろった素人探偵ぶりは健在です。

また前作はフランス料理が中心でしたが、本書では舞台がニューヨークということもあり、世界じゅうの料理がたくさん登場するのも魅力です。ウィーン、アフリカ、中東各国など、あまり日本人には馴染みのない料理が目白押しで、読んでいると「ああ、食べてみたい……」とため息が出てきます。それに加えてイギリス人であるグルメ探偵のニューヨーク観察日記としても、細かなところひとつひとつが笑えます。“選択過剰症候群”(たしかにニューヨークでは街角のホットドッグ屋ですら、タマネギ、ピクルス、レリッシュ等々なにをどれだけ入れるかと訊かれ、驚いた覚があります)、テーマパークのようなレストラン、派手なジェスチャー、ニューヨーカーの自己主張の強さ、極端に走りがちなヴィーガン、毒気の強いテレビ等々、そうそう、とうなずきながら笑いがこみあげること必至です。色々な楽しみかたのできるミステリです。どうぞ皆さんも楽しんでください。


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