クレイジー イン アラバマ
著作名
クレイジー イン アラバマ
著者
マーク・チャイルドレス
ジャンル
ミステリ
星の数
★★★★
出版社
産業編集センター
原作出版
1993
備考
訳者(村井智之)あとがきより

「わたしには夢がある(アイ・ハヴ・ア・ドリーム)」という、人種差別撤廃運動指導者、キング牧師の言葉はあまりに有名である。

本書『クレイジー・イン・アラバマ』(原題 Crazy in Alabama)は、1960年代なかばのアメリカにおいて、公民権運動の最も激しかったアラバマ州をおもな舞台として展開する。主人公となるは、12歳になる白人のピージョーと、その叔母であり、六人の子どもを抱える主婦ルシール。ピージョーの夢は葬儀屋になることで、ルシールの夢はハリウッドで女優になること。無邪気な少年がいだく夢にしてはあまりに風変わりで、一介の主婦がいだくにはずいぶんと大それた夢である。しかしピージョーの家族は、だれもが葬儀の仕事にかかわっており、彼はつねに死というものを身近に感じている。一方のルシールも、若いころから映画スターになる自分の姿を思いえがき、主婦として味気ない毎日を送りながらも、ダンスや歌のレッスンを怠らない。そんなある日、自分の夢をばかにし、理解のかけらも示さない夫についに我慢できなくなった彼女は、彼のコーヒーに殺鼠剤を入れ、その首を切り落とす……。

思春期を迎えて、はじめて「黒人」と「白人」の対立を目のあたりにするピージョー。しかし死んでしまえばだれもが同じということを身をもって知っている彼は、どうして差別というものが存在するのかまったく理解できず、周囲で起きているできごとをつねに冷静なまなざしで見つめている。反対に、冷静な状態とは対極にいるのが叔母のルシールで、彼女は夫の生首をタッパーウエアに入れたまま、女優になるべくハリウッドへと向かい、行く先々でそれこそクレイジーな行動に出る。

本書はピージョーの一人称の語りと、ルシールの視点から見た三人称の語りとが交互にくりかえされながら、破天荒な結末へと進んでいく。ごらんのとおりかなりの長編だが、人種差別の問題、葬儀屋の仕事、夫殺し、行きずりの男たちとのアバンチュール、ラスヴェガスでのギャンブル、ハリウッドの舞台裏と、テーマは盛りだくさんで、思春期の少年の心理や、奴隷のような生活にうんざりして狂気にかられた主婦の内面など、説得力のある描写も興味深い。


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