公爵家の相続人
著作名
公爵家の相続人
著者
ローリー・キング
ジャンル
本格推理
星の数
★★★
出版社
集英社文庫
原作出版
2002
備考

訳者あとがきより
メアリ・ラッセルとシャーロック・ホームズの出会いからここに到るまでの経緯を年代順に(出版順でなく)ざっとふりかえってみたい。

カリフォルニアで両親と弟を亡くし、英国の伯母の元へ引き取られたメアリ・ラッセルは、十五歳になってまもない1915年の春、サセックスの丘で偶然シャーロック・ホームズと出会った。類い希な知性を認められて、探偵学を伝授されることになり、やがてオックスフォードで神学を学びはじめる一方、ホームズの愛弟子から助手へと昇格。1918年の冬、宿敵に命を脅かされたホームズとともに一時ロンドンを離れ、英国占領下のパレスチナを訪れる。(『シャーロック・ホームズの愛弟子』)

現地では、ベドウィンのふたり組、アリーとマフムードが待っていた。二十年近くパレスチナ各地を放浪して情報を収集している彼らは、じつはホームズの兄マイクロフトの特命を受けた英国人の密偵だった。ラッセルとホームズもベドウィンに扮し、四人は砂漠の苛酷な環境下で数週間にわたって寝食をともにしながら、しだいに信頼で結ばれ、協力して困難に立ち向かい、英国を危機から救う。(『エルサレムへの道』)

1921年、21歳の誕生日を迎えて両親の遺産を相続し、自由と独立を手に入れたラッセルは、教師であり父であり親友であったホームズと人生においてもパートナーとなる。(『女たちの闇』)

1923年夏にはパレスチナで知り合った考古学者のために、キリスト教を根底から揺さぶりかねない文書をめぐる事件に挑み(『マリアの手紙』)、同年秋にはホームズの友人セイビン・ベアリング=グールド牧師の依頼で、ダートムアの怪事件を解決する。(『バスカヴィルの謎』)

そして本書『公爵家の相続人』は、ダートムアから久々にサセックスへ帰宅したふたりをアリーが訪ねてくるところから始まる。パレスチナ時代とは別人の彼にラッセルは驚かされるが、アリーの正体は英国の名門貴族アリステア・ヒューエンフォートだった。いとこ(厳密にはまたいとこ)マフムードの本名はモーリス・ヒューエンフォート。第六代公爵だった長男ヘンリーの死で、次男のモーリスが爵位を継ぐことになったのだが、いとこをパレスチナに帰してやりたいアリーはラッセルとホームズに助力を仰ぎ、ふたりをヒューエンフォート家の邸宅<ジャスティス・ホール>へ招く。二十年間の放浪生活と自由を捨てて重責を受け入れようとしているモーリス――マーシュ卿――は、生ける屍同然だった。ヘンリーには爵位を継承すべき息子ゲイブリエルがいたが、その彼は第一次世界大戦中、19歳で世を去ったのだという。モーリス――マーシュ卿――は、甥ゲイブリエルが銃殺刑に処せられたものと信じており、そのことでも苦しんでいるようだった。友人の心の重荷を少しでも軽くしようと、ラッセルとホームズはゲイブリエルの死について調べはじめる。手がかりはゲイブリエル少尉が両親に出した手紙と、従軍牧師からの悔やみ状。従軍記録はなぜか大半が消失していた。
ラッセルとホームズが到着してまもなく、ジャスティスの広大な敷地で鳥撃ちが催され、マーシュが流れ弾に当たって負傷する。偶然の事故だったのか、それとも故意に命を狙われたのか。その後、従軍牧師を訪ねたふたりは、ゲイブリエルの死を背後で操っている人物がいたことを知る……。


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