死と踊る乙女死と踊る乙女
著作名
死と踊る乙女
著者
スティーヴン・ブース
ジャンル
警察ミステリ
星の数
★★★
出版社
創元推理文庫
原作出版
2001
備考

リンガム荒野にそびえ立つ遺跡“九人の乙女岩”で、女性の惨殺死体が発見された。
伝説にあるように、まるで踊っているような姿勢を取って…。
つい数週間前、別の女性が重傷を負い、記憶喪失となる事件に続けて起きた惨劇に、地元警察は色めき立つ。
『黒い犬』に続き、現代英国警察小説の息吹を鮮やかに伝える、『ベン・クーパー&ダイアン・フライ・シリーズ』第二弾の登場。

“九人の乙女岩”で起きた殺人事件を解決するべく、イードゥンデイルの警察官たちは奔走していた。
クーパー刑事は現場周辺で聞き込みをおこない、かたやフライ臨時部長刑事は、最初の被害者である女性と面会して、犯人の手がかりをつかもうとする。
次第に暴かれる関係者の秘密。
だが、荒野ではまたしても女性が襲われる事件が…。
英国警察小説に新風を吹き込むシリーズ第二作。

あとがき解説より

本書が二作目となる<ベン・クーパー&ダイアン・フライ>シリーズは、いかにも英国ミステリらしい警察小説だ。捜査を担当する刑事を筆頭に、被害者、加害者、そして彼らの家族や周辺の住民など、事件にかかわる主要な登場人物たちの関係や性格、心情、生活が丁寧に事細かに描写されているのである。

舞台はイギリスのほぼ中央部に位置するピーク地方。1951年にイングランド初の国立公園に指定され、年間三千万人もの観光客が訪れるという風光明媚な地域である。その一角にあるリンガム荒野のストーンサークルで、女性の惨殺死体が発見されることから事件の幕が開く。おりしも6週間前、同じ場所で別の女性が何者かに顔を斬られるという事件があったばかりで、すわ連続婦女暴行事件かと警察は色めき立つ。

主人公であるふたりの刑事は、英国の警察小説では珍しい部類に入るだろうが、まだ20代という設定だ。その理由は、作者が最初からシリーズ化を意識して書き始めたというのがひとつ。それと、現実の社会に即した対応――実際の現場に出向いて捜査するのは、階級が低い平刑事だという理由もある。当然のことながら、そうした平刑事たちは難事件を解決するなどして実績を上げ、一刻も早い昇進を望んでいる。クーパーとフライのふたりも、もちろん同様の気持ちを抱いており、この両者の反目や互いに相手を意識し合う感情が、物語のもうひとつの格となって厚みを持たせている。

クーパーは地元出身で、父親の後を追って自分も刑事になった、誰からも愛される善良な青年だ。また他人の心の痛みを理解できる人物として、署内でも人望が篤かった。ところが、二年前、父親のジョー・クーパー部長刑事が町の若者に襲われるという非業の死を遂げてから、すべてが変わっていく。さらに母親が精神を患い、苦悩する日々が続いていた。そこへ、都会から赴任してきたタフな女性刑事フライが有能な仕事ぶりを発揮し、自分よりも先に昇進して臨時部長刑事となり、クーパーはますます落ち込んでいく。しかし、フライもまた人知れず心に深い傷を抱えていた。良心からの虐待、十六歳で生き別れたヘロイン中毒の姉など、過去の傷が今も心身を蝕んでいたのである。ふたりの関係は、稚拙な譬えで申し訳ないが、アナログとデジタルの相違に近いかもしれない。同じ目的地を目指し、同じ結論を導き出そうとしても、その方法、歩み方はまったく異なるのだ。クーパーがあらゆることへ地道に対応するのに対し、フライのほうは世の中をはっきりと白か黒かで捉えていく。加えて、職場における男女の差異という問題がどっしりと横たわっている。


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