フランドルの呪画
著作名
フランドルの呪画(のろいえ)
著者
アルトゥーロ・ペレス‐レベルテ
ジャンル
ミステリ
星の数
★★★
出版社
集英社文庫
原作出版
1990
備考
海外ミステリ全カタログより

「誰が騎士を殺害したのか?」フリアが受けとったX線写真には、隠されていたラテン文字がはっきりと映っていた。絵画修復師の彼女が新たに手掛けることになった、十五世紀のフランドル派の巨匠による『チェスの勝負』。チェスに興じる公爵と騎士、その背後で見守る公爵夫人を描いたその絵には、そんな言葉が塗り込められていたのだ。興味を抱いたフリアは、絵の登場人物たちの調査を、美術史家で元恋人のオルテガに依頼する。

オルテガの調べによると、絵の中の騎士ロジェ・ダラスは実際に不可思議な死を遂げたらしい。彼の死の謎を解く鍵がこの絵に秘められているに違いない。そしてこの謎は美術界にスキャンダルを呼び、絵の値段を吊り上げることにもなるだろう。そう考えたフリアは、古美術商を営んでいる親友のセサルに意見を聞くことに。

公爵と騎士ダラスによって行われているチェスの勝負。絵の中でまさしく今進行中のそのゲームこそが重要な意味を持っているのでは。そう判断した彼らは、チェスの名人であるムニョスとともに推理を行う。だが謎を解き終わらないうちに、現在を舞台にした事件までが発生する。しかも被害者はオルテガだった。

知的ゲームとして発展してきたミステリでは、チェスやポーカーといった題材が繰り返し用いられてきたし、受け手の側もそれを大いに歓迎してきた。そして、ヨーロッパやアメリカでベストセラーになったという本書もまた、チェスが重要な鍵を握っている。だが残念なことに、ここで見られる事件そのものは以外に単純だといわねばならない。そして、決して無駄ではない作者の饒舌な語り口すら、まるでその脆弱さを覆い隠そうとする巧妙な作戦のような印象を与えてしまっている。

もっとも、名画に秘められている謎、過去と現在の両方で起こる殺人、チェスを通しての犯人との心理戦といった題材は十分魅力的だし、肝心のチェスの方も、単なる味つけではなく物語の中で存分に生かされている。そして何よりも興味深いのは、本書がスペイン産のミステリだということ。絵画や歴史に関する含蓄と、それによって醸し出される知的な雰囲気に酔いながら、まだ見ぬ傑作に思いを馳せるのもまた一興か。


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