火刑法廷
著作名
火刑法廷
著者
ジョン・ディクスン・カー
ジャンル
本格推理
星の数
★★★
出版社
ハヤカワ文庫
原作出版
1937
備考

フィラデルフィア郊外に昔からあるデスパード邸で奇怪な事件がおこった。マイルズ・デスパードという独身の老人が死んだのだが、その状況が理屈ではどうにも説明のつかぬものだったのだ。

マイルズ老人は、三人の甥や姪と住んでいた。デスパード家の当主のマーク、その妹のエディス、一番下の弟のオグデンの三人である。事件のおこった夜、オグデンは外出しており、マークも妻のルーシー、妹のエディスと一緒に仮装舞踏会へ出掛けていた。

深夜二時過ぎに一同が帰宅してみると、マイルズ老人の身に異変がおきていた。老人は片手で腹を押え、ひどく苦しそうな様子で、「マーク、わしは死にかけている。お願いだ、死んだときは木の棺に入れて葬ってくれ、きっとだぞ」といいのこすと息をひきとった。そして、老人の戸棚からは、致死量の砒素の入った銀のコップが発見されたのである。

使用人のヘンダースン夫人の話が異様だった。

彼女は十一時半ごろ、ガラス戸越しに老人の部屋を覗いたのだが、そのとき、中世の貴婦人の格好をした女性が部屋のなかにいて、老人と話をしていた。その女性は屋敷の中にある肖像に瓜二つで、その後、部屋のなかを滑るように歩いて行って、昔は扉があったという壁のなかへ消えてしまったという。

その肖像画とは、17世紀の毒殺魔ド・ブランヴィリエ侯爵夫人以外には考えられなかった。デスパード家はフランスの出で、先祖の名はデプレといい、ド・ブランヴィリエ侯爵夫人を捕えて断頭台に送りこんだ人物がいた。すると、墓場からよみがえった侯爵夫人が子孫へ復讐するためにやって来たというのだろうか?

あまりにも奇怪な出来事だったので、マーク・デスパードは事件を警察に届けずに処理した。しかし、日が経つにつれて、彼は事件の真相が気になり始めた。葬儀から一週間後、彼は親友の医師トム・パーチントン博士、隣人のエドワード・スティーブンスと相談のうえ、納骨堂を開いて棺のなかの死体から砒素がどれだけ検出されるか、調べてみようということになった。納骨堂はコンクリートで固められており、ハンマーとつるはしを振るって開けるのに二時間もかかった。

やっとのことでなかに入り、棺を開いた一同は愕然とした。マイルズ老人の死体が消失していたのだ。


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