男は犬を見つめていた。すばらしい犬だった。男は一瞬の隙をついて、護送トラックから身を躍らせた。地獄のような強制労働キャンプから、自由へ!
しかし、早くも追手が――看守とあの犬が。ほんの一条のチャンスを掴んで仕掛けた、捨て身の攻撃。敵の銃に飛びつき、振りかぶって、犬の頭にたたきつけた。次の瞬間には看守の胸を打ち抜いていた。
いくばくかの後、犬が気がつくと、飼い主の看守は死にかけていた。かすかに唇だけを動かした。「あいつを、殺せ」そして、それっきりだった。犬は死に向かって声をかぎりに吠えた。苦しみを、怒りを、復讐を叫ぶ野生の生きものの声。それから、あたりの空気に、逃げていく男の臭いをかぎつけた。あとを追って歩き出した。