砂漠のサバイバル・ゲーム
著作名
砂漠のサバイバル・ゲーム
著者
ブライアン・ガーフィールド
ジャンル
冒険小説
星の数
★★★
出版社
扶桑社ミステリー
原作出版
1987
備考
ミステリベスト201より

二十一歳でデビュー以来、九つのペンネームを駆使してミステリからウェスタンまで幅広い創作活動をおこなってきた巨匠がいる。ブライアン・ガーフィールドだ。日本ではあまり馴染みがないかもしれないが、アメリカ探偵作家クラブ(MWA)の会長を務めたこともある大作家。名前に覚がなくてもチャールズ・ブロンソン主演の『狼よさらば』やウォルター・マッソー主演の『ホップスコッチ』という映画はご存じだろう。ガーフィールドは二作の原作者。特に後者はMWA最優秀長編賞受賞作(ハヤカワ文庫)。ゲーム性に富む巧緻なプロットを得意とする職人作家で、本書にもその特徴がよく出ている。

アリゾナの砂漠地帯に素っ裸で放りだされた四人の男女。いずれも現役もしくは元精神科医。実はこの四人、ある裁判でベトナム帰還兵を精神異常とみなし、精神病院に送ったのだ。だが、強制入院させられ、閉じこめられた帰還兵は彼らを恨み、病院を脱走。彼らを誘拐したのだった。水も食糧もない灼熱の地獄に放り出された四人。彼らはいったいどう生き延び、どう犯人と対決するのか?

とにかく物語の緊張感の高まりが凄い。酷薄な自然描写と極限まで追いつめられた人間群像の見事な活写。肌が粟だつ強烈なサスペンス。サバイバルの情報を満載しつつ、愛・憎悪・友情・神などあらゆるテーマを提示しながらエンターテイメントとしての完成度を高めていくあたりの巧みさは脱帽物、まったく大した作家だ。しかも、いつものガーフィールドらしく、全然生臭くなく、後味がいいのだ。本書は、第一級の娯楽作家が、卓越した技巧を見せた傑作サスペンスだ。

本書以外の作品では、若妻がマフィアの夫から逃れる『切迫』(文春文庫)、弁護士が犯罪組織から逃亡、やがて反撃に出る『反撃』(早川書房)、そして読みはじめたらやめられない歴史サスペンス『ロマノフ家の金塊』(ハヤカワ文庫)がお薦め。(池上冬樹)


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