逃げる殺し屋
著作名
逃げる殺し屋
著者
トマス・ペリー
ジャンル
冒険ミステリ
星の数
★★★
出版社
文春文庫
原作出版
1982
備考
ミステリベスト201より

常に周囲に融け込み、殺し、一切の痕跡を残さず去るプロ中のプロ。「ブッチャーズ・ボーイ」名前さえ知られぬ殺し屋を人はそう呼ぶ。彼の仕事は完璧だった。しかし、偶然襲ってきたチンピラに顔を傷つけられた時から事態は一変する。狩る者から狩られる者へ。脱出、逃走、急襲、迎撃。己の持つすべての技術を駆使しての必死のヒット・アンド・アウェイ。が、追っ手は依頼主のマフィアだけではなかった。相次ぐ不審死に殺し屋の存在を直感した司法省の若き女性捜査官エリザベスもまた着実に彼に迫りつつあった。果たして彼の逃走は成功するのか。

『シブミ』『キラー・エリート』『パラダイスマンと女たち』など、殺し屋を主人公とした作品には傑作が少なくない。それは死を生業とすることで、常に作品世界に緊迫感を漂わせることから生じる必然なのかもしれない。言い換えれば、魅力ある殺し屋を登場させた時点で、その作品はある程度まで成功したと言えるのではないだろうか。ではこの作品の主人公の魅力は何かといえば、「ブッチャーズ・ボーイ」という通り名しか持たない匿名性であろう。いかに殺すかではなく、いかに痕跡を残さず殺し去るかといった点を最重要視するプロの姿勢こそが、彼の最大の魅力である。また逃走中に彼が随所で思い起こす師匠の遺訓が、アクセントとなるだけでなく、この作品に独特のユーモラスを与えている。いわく、「怪我をしたら仕事はするな。俺はニキビひとつできても殺しはしない」「猫を飼いいかにして陰になるか教われ」等など。さらに、彼を捕えようとする新米女性捜査官に『羊たちの沈黙』のクラリスの先駆けを見いだす読者もいるであろう。

作者ペリーはこの作品でMWA最優秀処女長編賞を受賞。他に『ビッグ・フィッシュ』(文春文庫)等がある。92年には本書続編『殺し屋の息子』が出版された。と・い・う・こ・と・は!?(川出正樹)


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