蒼い氷壁
著作名
蒼い氷壁
著者
ハモンド・イネス
ジャンル
冒険小説
星の数
★★★
出版社
ハヤカワ文庫
原作出版
1948
備考
世界の冒険小説総解説より

テムズ河畔につながれた一隻の美しいヨット、内装は全て改装され、メインマスト・索具・帆も全て新品にし、補助エンジンも海軍払下げの大型エンジンに取り替えてある五十トンの斜桁帆装式二本マスト船、ディヴァイナー号。すでに食糧・燃料の用意を終え、世界中どこへでも出帆する準備が完了していた。船長のビル・ガンサートは、第二次世界大戦の終了によって、それまで自分が情熱を傾けていた仕事がもはや存在しないことに気づき、新たな地、自分を必要とすべき仕事を求めて、航海に出ることを決意したのだ。そして彼の右腕、航海を共にすることになったディック・エヴァード、元海軍中尉の彼もまた、自らの可能性にかけるべく出帆を待っていた。さらに二人の雇われ船員を加えた四人の乗員で、ディヴァイナー号は明日、地中海へ旅立つばかりとなっていた。

そこへ突然、ガンサートを尋ねて、かつての会社の上司クリントン卿が現れ、彼に珪トリウム鉱の鉱石を示すと共に、ノルウェーでの鉱脈調査を依頼する。珪トリウム鉱、それはガンサートが開発した夢の合金、珪トリウム合金の製造に欠くことのできない鉱石なのだが、産出量が極端に少ないため、彼はその実用化をあきらめていたのだ。しかし、もしもノルウェーで新たな鉱脈が発見できれば、自分の夢が現実のものとなる。そう思うとガンサートは、一度は消えかかった仕事への情熱が再び湧いてくるのを覚えた。
 さらにクリントン卿は、この鉱石が十年前に失踪したかつてのガンサートの僚友、ジョージ・ファーネルによってもたらされたものだというのだ。卑金属の権威だったファーネルは、中部ノルウェーの大山脈群の中で知られざる鉱物資源を発見すべく、姿をくらましたらしいのだが、つい一ヶ月前、ノルウェーのボヤ渓谷で転落死体となって発見されていたのだ。
 ガンサートは予定を変更し、クリントン卿の申し入れを受けて、ノルウェーに出帆することを決意した。

クリントン卿が新聞で、広くジョージ・ファーネルの情報を募ったため、ガンサートのもとへ四人の人物が訪れた。それはファーネルの元恋人だったジル・サマーズ。新しい鉱脈の利権を独占しようと狙う、ノルウェー製鋼会社のクヌウト・ヨルゲンセン。ファーネルのかつての戦友カーティス・ライト。そしてファーネルに命を救われたという片腕の老人ヤン・ダーレル。四人はそれぞれ、ファーネルの最期について、真実を知りたがった。ガンサートは、そんな四人がまだ何かを隠していると直感し、それを聞き出そうと、四人が船から降りるすきを与えず、強引に出帆した。
 ファーネルの残した数少ない手掛かりから、ボヴォーゲン捕鯨場へと向かうディーヴァイナー号に、捕鯨船十号より連絡が入った。それは、捕鯨船十号でノルウェーを脱出しようとした、ファーネルの仕事仲間ハンス・シュラウダーを捕え、持っていた鉱石のサンプルを確保したというものだ。ガンサートは単身捕鯨船十号へ乗り込み、船長のローヴォスと取引しようとする。とその時、監禁から逃れたシュラウダーは、海中へと姿を消すのだった。
 ガンサートは、ファーネルの死を確認すべく、彼の墓を暴こうとしたが、ヨルゲンセンの会社から圧力を掛けられた地元警察は、墓の発掘許可を降ろさなかった。一方、シュラウダーを追うローヴォス船長は、フィヨルドの奥深く、アウルランへ向かっていた。ディヴァイナー号で後を追うガンサート。追跡は、雪山を、氷河を越えて続き、ようやく山小屋にたどり着く。
 が、そこにはすでに、ローヴォス船長の仕掛けた罠が……。


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