霧深いロンドンの、とある空き家で一人の男が死んでいた。
死体には全く傷痕がない。
果たして自殺か、他殺か?
謎の死体のほかには壁に血書した「RACHE」の文字だけ。
この怪事件こそ、インドに従軍して帰国したジョン・ワトソン博士とシャーロック・ホームズの名コンビが手がけた初の事件であった。
……物語は第一部と第二部に分かれ、一部ではワトソン博士の回想録が紹介される。
二部では全く別の形をとった過去のある事件が記述され、最後のくだりになって、はじめてこの両者が最初の“殺人事件”へと結びつく。
快刀乱麻を断つホームズのあざやかな推理は見事というほかない。“緋色”とは“殺人”のことだということが、読み終わったあとでしみじみとわかる古今の名作である。