初秋
著作名
初秋
著者
ロバート・B.パーカー
ジャンル
ハードボイルド
星の数
★★★
出版社
ハヤカワ文庫
原作出版
1981
備考

ポールは小柄な痩せこけた体にしわだらけのピー・コートをはおった、両親にふりまわされることに馴れた、いじけた自閉症ぎみの少年だった。「ぼくはどっちと暮らしたっていいんだ。二人ともうわべだけの不愉快な人間だ。ぼくは大嫌いなんだ」と彼は声を震わせていった。

パティ・ジャコミンというセクシーな女から、離婚した夫が息子を連れ去ったので取り戻してほしいと頼まれたとき、私はまさかそういうことだとは思わなかった。不動産屋で威圧的な父親のメルは愛人とよろしくやり、母親のパティもめかしこんだ恋人をもっている。彼女は帰ってきたポールを抱きしめるでもなく、こともなげに、恋人と食事の約束があるので中華料理店にでも連れていってと私に少年を押しつけた。二人は相手に嫌がらせをしようと、フットボールの球のようにポールを奪い合っているのだ。

3ヵ月後、事態が悪化した。チンピラめいた男たちがポールを誘拐しかけ、パティを脅迫した。私はそいつらを締め上げて追いかえしたが、こんどはパティ自身が拉致されてしまう。どうもメル・ジャコミンは組織とつながりがあるようだった。

相手側の要求はパティと引き換えにポールを渡すこと。場所はマサチューセッツ・アヴェニュー橋の中央だ。私は黒人の殺し屋、僚友とたのむホークの協力でなんとか二人を保護することに成功した。

すでに一件は発砲沙汰にまで発展している。それに、終日部屋でテレビばかり見ている無気力な少年のことも気になった。私は憤激にかられてポールの身柄を預かることにきめた。彼は15歳だ。これ以上くそみたいな親に頼ることはできない。短期間に大人になり、自立する必要がある。

いまはポールにとっては初秋なのだ。

5月初めで日差しが強く、花が咲き始めていた。私はポールをランドクルーザーに乗せ、田舎の湖畔へ連れていった。そこに二人で自炊して小屋を建てようというのだ。ひ弱な子供に教えることは山ほどもある。ジョギング、ウェイト・リフティング、シャドウ・ボクシング、薪割り、穴掘り――もちろん衣服も食事も音楽も選べなくてはならない。自分の将来を自分の言葉で語れなくてはならない。私にできるのは一緒に働き、眠り、語り合うことだけだった。

自閉症気味の少年が、スペンサー流のトレーニングで心身ともに変容する。独身のスペンサーが父親の役割を果たすあたりが読みどころ。ミステリー味は薄いものの、小説としての魅力が横溢するパーカーの代表作。


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