27
著作名
27
著者
ウィリアム・ディール
ジャンル
冒険小説
星の数
★★★
出版社
角川文庫
原作出版
1990
備考
海外ミステリ全カタログより

ドイツ怪奇映画のヒーローであった俳優ヨハン・インガソルは自動車事故で死亡した。その後、ドイツからアメリカに渡り、平凡な人間としてある町に住みついた男がいた。暗号名をドイツ語で<27>、スワンというそのスパイは事故で死んだはずのインガソルであった。

インガソルはヒトラーの私的な参謀であり、極秘情報組織の長であるヴィルヘルム・フィーアハウス教授によって見出され、ヒトラーの直接の命を受けたスパイであった。彼は極秘の訓練を受け、最高の工作員として生まれ変わっていた。

同じ頃、ベルリンには第一次大戦で勲章をもらう働きをし、その後富豪になった若い男が滞在していた。フランシス・キーガンというその男はパーティーにおいてもつねに人の注目を浴び、いろいろな噂が囁かれる男だったが本当の姿はあまり知られていなかった。禁酒法時代に酒の密輸で巨万の富を得て、今は何らかの理由でキーガンはベルリンに滞在していた。

ベルリンのナイトクラブ<黒い牡牛クラブ>でキーガンは運命的にある女性と出会った。キーガンはクラブで歌うジェニー・グールドというユダヤ人の女性歌手に恋をしていた。激しい恋に落ちたジェニーとキーガンはフランスに渡って、楽しい日々を送った。しかし、時とともにナチスのユダヤ人狩りは激しさを増していた。ジェニーの異母弟のアフルム・ヴォルフソンが大学の友人とともに<ブラック・リリー>という反ナチ組織を運営し、ナチスと闘っていたため、ジェニーはキーガンとともにアメリカへ行くことはできなかった。

危険を承知で、ベルリンに潜入したジェニーはフィーアハウスに捕まり、ダッハウ収容所に送られていた。数年後、ジェニーを引き止められなかったことに責任と後悔を抱いて生きてきたキーガンにある知らせが届いた。アメリカに、ヒトラーの命でフィーアハウスが潜入させた<27>というスパイがいるらしいと。キーガンはジェニーの復讐のため、アメリカのため、全力でそのスパイの捜索に着手した。

ヒトラーの送り込んだ殺人機械インガソル。そして彼を追うアメリカの富豪フランシス・キーガンの一つの復讐劇に本書はなっているが、実際に追跡が始まるのはラストも終わりに近づいたところである。作者の意図はインガソルと特にキーガンとジェニーの造形にあったようで、回想シーンを多用して、キーガンの半生を見事に描写してみせる。キーガンの生涯を語ることにかなり分量を費やしただけに、インガソルを探して対決するシーンにはそれだけの重みが感じられる。


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