血の絆
著作名
血の絆
著者
A.J.クィネル
ジャンル
冒険小説
星の数
★★★
出版社
新潮文庫
原作出版
1984
備考

主人公カースティは、ニューヨークで平凡な簿記係の仕事につく中年女性だったが、ひとり息子が誘拐されたと知るや、ヨットで遥かセーシェルの小島に乗り込み、スタンガン片手に息子奪回に狂奔する。その活躍のさまは、さながら荒れ狂う地母神のごときものがあった。

古代人の地母神信仰というのは、すべてを生み育てる大地と母性の不思議な機能とを同一視したところから始まったと言われるが、ここで忘れてはならないのは、大地はすべてが還る“死の場”でもあり、したがって、地母神も、すべてを破壊し呑み込む死の神の側面をもつ、ということである。

カースティは息子奪回の決意をこんなふうにたとえて語る。「……仔猫を狙ってやって来る大きくてさもしげな犬だったわ。この犬はもちろん親猫に爪で八つ裂きにされました……わたしには爪はありませんが、わたしの息子を傷つけた相手なら、わたしはどんなひとでも恐がりません」

内藤陳のお薦め文
  最新設備を誇る豪華船でさえ“板子一枚下は地獄”はまごうことなき真実なのに、今にもバラバラになりそうなオンボロ船(ヨット)マナサ号ならば“天国にいちばん近い船”とでも……。

しかし、インドの税関で書記をしていた薄給のラメッシュにとってのマナサ号は、冒険のロマンを解放する自由への船だった。そして、ニューヨークのオフィスで働いていた中年の未亡人カースティには“追跡”するために、どうしても必要な船なのだ。

ある日カースティに届いた一通の電報は、家出した一人息子が溺死したと告げていたが、どうしても信じられない。

“血の絆”が呼んでいるのだ。しかも息子の乗っていた船は悪名高き密輸船なのだ! カースティは大方の反対をふり切って単身、息子捜しの旅に出る。そしてまた道連れになるのは、ハンサムゆえに恋人もできない? 石油掘りのケイディ。あのモルジブからは一人ぼっちのスマトラ美少女がこっそりと乗り込んでいた。

こんな四人がちっぽけな船で、広大なインド洋に追跡の船出をしてゆく。

美しい南海の島々、緑にかすむ水平線、そして襲いくる暴風雨。やがて彼らは人間としてのより深い絆ができたことに気づいていた……。

気品の高い小説なのだ。美しい小説なのだ。ゴキゲンなのだ。「ジェロニモ・オオ!」だ。情(なさけ)がいい、夢もいい。出会う島も、人々もいい。

特に陳メは、酔いどれながらもマナサ号の修理に手を貸した英海軍あがりのジャック・ネルソン――間抜けなだぶだぶ半ズボン――に泣いたのだ! あえて言うぞ、感動のラストに涙せぬ奴は、人間では無いと……。

すみ&にえさんの評


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