このシリーズはスパイ小説のなかの絢爛たるロマンティシズムの要素をとことんまで誇張し拡大し、同時にその描写は酒、料理、ファッション、煙草からライターなどの小道具のはしに至るまで現実性に徹することで子供だましの荒唐無稽におちいらなかったシリーズで、比較的初期の作品に佳品が多い。
処女作として記念すべき「カジノ・ロワイヤル」は南仏の豪華とばく場(カジノ・ロワイヤル)を舞台にイギリス秘密情報部員ジェイムズ・ボンドがソ連工作員にしてフランス共産党の大立者ル・シッフルの資金源を絶つために対決し、場からの大勝負を展開してみごとに相手を負かす。しかし、たちまちのうちにその報復がおこなわれ、敵方に捕らえられたボンドはすざましい拷問を受ける。そして、そのかげには常に彼が心ひかれてやまぬ美女ヴェスパーの存在が……。