血の収穫
著作名
血の収穫
著者
ダシール・ハメット
ジャンル
ハードボイルド
星の数
★★★★
出版社
創元推理文庫
原作出版
1929
備考

パースンヴィルは西部にある人口4万の鉱山町だ。煉瓦造りの煙突がいくつもたちならぶ。二つの山に挟まれた薄汚れた町。ここはかつて鉱山王エリヒュー・ウィルスンの個人所有物といってもよかったが、いまでは形ばかりの権力をもっているにすぎない。第一次大戦以来、労働争議の波が高まるなかで、エリヒューはこれをおさえこむのに暗黒街組織の手を借りた。ときは禁酒法の全盛期。その代償に町を牛耳られ、警察から市政にいたるまで汚職がはびこったのも当然のことだった。

コンチネンタル探偵社のおれが足を踏みいれたのはそんな町だ。

依頼人はエリヒューの息子、町の新聞社ヘラルドの社長ドナルド・ウィルスンである。ヨーロッパから帰ったばかりの彼は、あまりの無法状態に驚き、市政の浄化を訴えて紙上で論陣をはっていた。

おれは依頼の件を聞くべく彼の屋敷を訪ねたが、主はあいにく留守だった。出迎えた夫人も、そのうち電話で呼び出しをうけてビュイックのクーペに乗って家を出ていった。45分待った。その晩は退散したが、おれは戻ってきた夫人の緑色の室内用の靴が血で塗られているのを見逃しはしなかった。

翌日、ドナルド・ウィルスンの死が報じられた。

思いがけない依頼人の死で、おれの予定はすっかり狂ってしまった。夫人の供述で現場には夫人とマックス・ターラーという暗黒街のボスがいたことが判明したが、どうも二人とも何者かに誘いだされたものらしい。おれは老エリヒューのもとへおもむき、息子殺しの情報を教えた。真犯人の目星はついていたが、関係者の出方をうかがったのだ。

効果はすぐにあらわれた。警察署長のヌーナンは以前から目の敵にしていたターラーに、ぜがひでも罪を被せるつもりらしい。そこへ老エリヒューがおれを呼びつけ、「この豚小屋を大掃除する気はないか」とけしかけてきた。おれはやる気になっていた。町を支配する顔役どもをぶつけ合わせて、きれいに片付けてやるのだ。数日後、血で血を洗う抗争の火蓋が切っておとされた……。

やるか、やられるか。倫理を超越した腐敗の街で繰り広げられる、血も凍る戦い!


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