夢果つる街
著作名
夢果つる街
著者
トレヴェニアン
ジャンル
警察ミステリ
星の数
★★★
出版社
角川文庫
原作出版
1976
備考

“ザ・メイン”、吹き溜まりの街。イギリス地区とフランス地区の中間にあって、どちらにも属さないモントリオール第三の要素。数多くの移民が流れ込み、融合しないままに混在する猥雑な一地区。そして老人と負け犬と希望を失った者の住む“夢果つる街”。三十年以上パトロールしてきたラポワントは、この街の「法律」であり「運命」である。“ザ・メイン”の裏も表も熟知し、愛着を持って見廻る監視人。そんな彼が遭遇した奇妙な殺人。跪き祈るような姿勢で刺殺された死体は街のダニと呼ばれる男のものだった。

クロード・ラポワント、若くして妻を失い、身寄りもなく、そのエネルギーのすべてを仕事に捧げてきた警官。胸に手術不能の動脈瘤という爆弾を抱え、亡くした妻と存在しなかった娘を妄想し、週に二晩トランプをする日常に知足していた彼の生活に、突如現われた二つの異分子。理想に燃える新米警官のガットマンと、宿無しの家出娘マリー・ルイズ。押し付けられた助手と、街で拾った売春婦。片や陽の当たる場所を歩いてきたエリート。片や日陰の道を歩んできた落伍者。この正反対に位置する二人の若者が、彼の固まった生き方に微妙な変化を起こさせる。無論この二人も彼からより大きな影響を受け、それまでの人生観を修正していく。またトランプ仲間との「犯罪」と「罪悪」についての議論も興味深い。愛に背く罪が最大の罪悪だという言葉は、読む者の胸に重く響く。作者は、新旧の対立という構図で、「犯罪」と「罪悪」の相違をテーマに、街とそこに生きる人々を、いたわりを持ちながらも、感情に溺れることなく抑制の効いた透明感ある筆致で描き出す。


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