密造人の娘
著作名
密造人の娘
著者
マーガレット・マロン
ジャンル
ミステリ
星の数
★★★
出版社
ハヤカワ文庫
原作出版
1992
備考
海外ミステリ全カタログより

デボラ・ノットは、ノース・カロライナ州コルトン郡の弁護士で、34歳の独身女性。
いまは地方裁判所判事に立候補している。
男性社会の南部では、女性候補者というだけで不利な上に、かつてノース・カロライナ州東部最大の密造酒屋だった父親の過去も、彼女の選挙戦に微妙な影を落としている。
さらには、昔デボラがベビーシッターをしていたゲイル・ホワイトヘッドが、母親の死の真相を突き止めてほしいと依頼してくる。
ゲイルの母ジャニーは、18年前に生後まもないゲイルといっしょに行方不明になり、3日後に他殺体で発見されていたが、事件はいまだ未解決のままだった。
ゲイルの真剣な頼みを断りきれず、デボラは選挙のキャンペーンで郡内を飛びまわるかたわら、当時の関係者を訪ねて話を聞くのだが、やがて事態は思わぬ展開を見せはじめ、選挙の行方も混沌としてくる……。

1992年度のMWA賞、アンソニー賞、アガサ賞、マカヴィティ賞を独占し話題になった作品である。

著者のマーガレット・マロンは、作家歴20年、長編だけでも12の作品を発表、女性ミステリ作家の団体、シスターズ・イン・クライムの会長も務めたというベテラン女流作家である。にもかかわらず、わが国では、短編がいくつか紹介されているだけで、本書が本格的な本邦デビュー作品といえるだろう。四賞独占ということでたいへん話題になった作品らしいが、純粋にミステリとして読むと当てがはずれる。

確かに、迷宮入りの殺人事件の解明という大きなテーマがあるが、犯人が仕掛けた大トリックやアリバイを主人公が暴くという本格推理ではない。その代わり、主人公のデボラ・ノットという女性の日常、生活、父親との葛藤、彼女を取り巻く兄弟、友人らの脇役の描写に魅力がある。そして何よりも、野外パーティー、風景などに見られるアメリカ南部独特のムードこそが本書の特徴といえよう。旧家、怨念、嫉妬、秘密性、ホモ、レズ……読み進むうちにそんな言葉がおのずと浮かび上がり、一挙に最後の衝撃的悲劇に突入する。傾向から見るとほんのわずかだが、ロス・マクドナルドなどの私立探偵小説的なものがちらっと脳裏をかすめる。しかしあのような暗さはない。


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