恐怖の関門
著作名
恐怖の関門
著者
アリステア・マクリーン
ジャンル
冒険小説
星の数
★★★★
出版社
ハヤカワ文庫
原作出版
1961
備考
小林信彦『地獄の読書録』より

読み始めたらやめられない――というのが大衆小説の第一条件だと思うのだが、何の期待もなしにパラパラとめくり始めて、たちまちひきこまれ、気がついたら読み終えていた。という経験は久し振りだ。

巻頭で、理由がわからぬままに、旅客機が撃墜される。小説は、この旅客機と交信していた「私」の側から書かれており、機には「私」の恋人か何かが乗っていたらしい。「私の赤いバラは白くなった」という一行が、作品全体を貫く赤い糸、キーワードになっている。

次に、どういうわけか、「私」はアメリカ西部の小さな町の法廷にいる。「私」は過去において、大犯罪を重ねてきたらしい。「私」は、いきなり、警官を射ち、そこにいた若い娘をつれて逃走する。

「私」は人質の娘をつれて逃走し、モテルにかくれたところ、タフなはずの「私」よりずっとタフなジャブロンスキーという男にノサれ、つかまってしまう。ジャブロンスキーは娘の父親(石油王)に電話して、五万ドルくれれば娘をかえす、と交渉、成立して、「私」と娘を石油王の邸宅につれてゆく。

この邸宅がまた奇妙なもので、えたいの知れぬ殺し屋、麻薬中毒患者がのりこんでいる。堅いはずの石油王がどうしてこんな連中とつき合っているのか、フシギである。

さらにフシギなのは、誘拐犯の「私」とジャブロンスキーの前身はニューヨークのタフな刑事で、石油王はどうやら二人のタフネスを買ったらしい。

「私」とジャブロンスキーは申し出を承諾し、寝室に通されるが、ドアがしまるやいなや、二人は盗聴器を探し始める。どうやら、この二人はグルだったらしい。……すると、どういうことになるのか?

事件の発端で、すでにこれだけのドンデン返しがあるのだから、あとは押して知るべし、人がジャカジャカ殺され、事件は次から次へとおこる。終りの方は、ことにダッシュが利いているといえよう。要するに、これはイギリス流冒険小説のもっとも良いところを合わせもった作品で、フレミング(007シリーズ)のようなお色気はない代わりに、アクションが徹底しているし、構成もずっとうまい。


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