ドーヴァー4/切断
著作名
ドーヴァー4/切断
著者
ジョイス・ポーター
ジャンル
ミステリ
星の数
★★★
出版社
ハヤカワ文庫
原作出版
1967
備考

せっかくの休暇旅行だというのに外は雨降りだった。ロンドン警視庁のドーヴァー警部が夫人の運転でドライヴとしゃれこんだのはいいがツイてないとはこのことである。
助手席でふて寝をきめこんでいたドーヴァーは、急ブレーキで車のフロント・グラスにしたたかに額をぶっつけた。

「この間抜けめ!」

2百ポンドをこえる巨体もろともぶつかったのだから、ドーヴァーは烈火のごとく怒りくるった。だが夫人はハンドルを握りしめたまま、青ざめた表情で前方を見つめるばかりなのだ。
  「だって、いまあそこの崖から人が飛びおりたのよ。わざわざ柵を乗り越えて」
ここは海辺の町ウォラートン。カリィ岬はその町はずれにある432フィートの絶壁だ。身を投じたらまず助からないだろう。
ドーヴァーはかかわりあうのを恐れて、先を急ごうと提案する。もちろん夫人は引きさがらなかった。休暇はもう終わったも同然だった。

自殺した男は地元の警察署長の甥で新入り巡査のコクランという。後ろ盾もあって職務にはげんでいたし、女ぐせが悪いという評判はあったが健康そのものの男だった。ドーヴァーはロンドン警視庁の敏腕警部と誤解され、署長たっての願いで原因究明を引き受けるはめになった。おりから休暇中のマグレガー部長刑事も呼び寄せられた。

コクランはこのところナイトクラブ経営者のハミルトンが怪死をとげた事件を捜査中だった。ハミルトンはある朝、自宅の庭先で手足を切断されて転がっていた。衣服がそのそばにきちんとたたまれていたという妙な事件である。またコクラン青年は身投げする前の一週間、ふさぎこんで下宿にこもっていたことも判明した。

マグレガーの勤勉な捜査をよそに、無能なドーヴァーはホテルで食っちゃ寝を繰り返していたが、ついに重い腰をあげて突拍子もない推理を披露した。町中を歩きまわっている婦人会の連中が怪しいというのである。ドーヴァー自身もハミルトン家を訪問したさいに、アマゾネスのようなおばさんどもにむりやり隣の犬猫病院に担ぎこまれた恐怖の経験をした。ドーヴァーの目がランランと輝きはじめた。

フロストと1、2を争ういやな主人公だがダメさ加減はドーヴァーのほうが1枚も2枚も上。


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