パスポートとオーストラリア行きの船の切符、そして2千ポンドとひきかえに、元 I RA(アイルランド共和国軍)の兵士マーチン・ファロンは殺しを請け負った。彼は天才的な銃の使い手だったが、誤ってスクールバスを爆破し、罪もない子供たちを死なせて I RAを脱退したひとりの逃亡者なのだった。
依頼人は、表向きは葬儀社社長、裏では大がかりな暗黒街組織をひきいるジャック・ミーアン。雨がそぼふる墓地で黒い僧服姿のファロンは標的を待ちかまえた。その瞬間、「やめなさい!」という声が重なった。犯行を教会のダコスタ神父に目撃されたのだ。ファロンの死神のような目が光ったが、彼は拳銃の狙いをはずして姿を消した。
一方、警察の追及を恐れたミーアンは、その魔手を神父と美しい盲目の姪アンナにのばしてきた。ファロンは決断を迫られた――彼らを見殺しにするか、それとも国外脱出をあきらめて悪の帝王ミーアンを始末するか。
かくして、ファロンとミーアン一味との凄絶な死の対決が始まった……。
ヒギンズが、自作のなかで最も好きな作品に挙げたのが本書である。
主人公や神父、その盲目の姪など、登場人物の造形の妙に著者の力量を読み取ることができる。
と言うよりこの頃までのヒギンズだったらどれもお薦めなのだ。