キドリントンから消えた娘
著作名
キドリントンから消えた娘
著者
コリン・デクスター
ジャンル
本格推理
星の数
★★★
出版社
ハヤカワ文庫
原作出版
1976
備考

場所は大学都市オックスフォード郊外の小さな町キドリントン。日時は6月10日正午。とても暑い日だった。

ロジャー・ベイコン中等総合学校の美しい女生徒バレリー・テイラーは、昼食を自宅でとったあと、700ヤードしか離れていない学校へ戻る途中で、こつ然と失踪した。警察は必死で捜索したが、誰も彼女の姿を見た者はいなかった。死体となって発見されるということもなかった。

それから2年後のある日、バレリーの両親のもとへバレリー当人から「生きているから心配しないで」という簡単な文面の手紙が届いた。ただし、差出人の住所は不明だった。

一人の気まぐれな家で娘の捜索。このごく平凡な事件を、不慮の事故死をとげた前任者から引き継いで担当することになったのは、オックスフォード市テムズ・バレイ署のモース警部である。モースはルイス巡査部長とともに、バレリーの両親のテイラー夫妻、ロジャー・ベイコン校の校長ドナルド・フィリップソン、教頭のレジナルド・ベインズ、当時フランス語の助教諭だったデビッド・エイカムら関係者の周辺をあたりはじめた。

バレリーはすでに殺されている、とモースは直感した。手紙は彼女の筆跡をまねて別の人間が書いたに違いない。そこへ、べインズが何者かに背中に肉切りナイフを突き立てられて殺される、という事件がおこった。誰がべインズを殺したのか? モースの頭のなかで歯車がスピード回転し始めた。

犯人は、バレリーの母グレースである。事件当日、学校へ戻る途中を目撃されたバレリーは、実は風貌が瓜二つのグレースの変装だった。彼女は、バレリーが実の父ではないジョージ・テイラーと寝て妊娠したことを知って殺した。その証拠を?んで脅迫していたのがべインズで、彼もまた殺したのだ。
――というのがモースの推理だった。この推理は間違いのないように思われた。パズルの断片が、すべてきちんと合うのだ。

ところが意外なことに、バレリーが失踪事件をおこした当日、ロンドンの病院で彼女が妊娠中絶手術を受けている事実が判明したのである。

モースは愕然とした。彼は全精力を傾けて考え抜いたあげく、まったく異なる推理に到達し、ルイスに言った。
  「私の間違いだった。バレリーは生きている。彼女がべインズを殺したのだ」


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