草の根
著作名
草の根
著者
スチュアート・ウッズ
ジャンル
冒険小説
星の数
★★★
出版社
ハヤカワ文庫
原作出版
1994
備考
海外ミステリ全カタログより

「警察署長」の舞台のアメリカ南部ジョージア州のデラノ市、ウッズの処女作であるこの長編の主人公ヘンリー・リーは、その昔開拓者の一人として町づくりに大いに貢献した。彼は初代の警察署長となり、息子のビリーは州知事にまでなった。本書はヘンリーの孫ウィル・リーを中心にした現代の物語である。

ウィルはハーバート大学のロー・スクールを卒業すると、父と一緒に法律事務所を設立し、弁護士として働いていた。その後、法律事務所は父に任せ、ウィルは州選出のベン・カー上院議員の事務所スタッフとなり、やがて第一秘書にまで昇進した。老齢のカーは自分の後継者として君を考えているとウィルに打ち明けた。

休暇をとって故郷のデラノに帰ったウィルは、旧知の老判事から殺人事件裁判の公選弁護人を頼まれる。裕福な黒人農場主の娘がレイプされ、絞殺された。容疑者として修理工の白人青年が逮捕された。この裁判は人種問題で全国的注目を集めることになるかもしれない。ところが田舎弁護士ばかりなので、ウィルに白羽の矢が立ったのだった。カー上院議員も承知のうえで、ウィル自身も将来の選挙を考え、知名度を高める思惑もあって公選弁護人を引き受ける。

ところがカーが脳卒中で倒れ、失語症になってしまった。ウィルの後継問題は公表されないまま宙に浮いてしまった。カーが再起不能と分かると、上院議員のポストを狙って対抗馬が動き出した。ウィルは焦るが、裁判の準備のため容疑者の犯行事実の確認に忙しかった。

その問題に平行して、デラノに近いアトランタでポルノショップが暴漢に襲われ、店長と店員二名が殺され、オーナーが瀕死の重傷を負う事件が起こった。金品は奪われていないところから物取りの犯行ではなく、「おかまとユダヤ人に死を」との落書きが残され、ユダヤ人のオーナーと、ホモセクシュアルに激しい憎悪を抱いた人間の仕業と思われた。

危なく助かったオーナーは、この犯人が挙動から退役軍人だと証言する。アトランタ市警のキーン刑事は州内の退役軍人の写真をオーナーに見せ、犯人を割り出した。その裏には「執政官」と名乗る正体を見せない州の右翼ボスがいた。彼はユダヤ人やホモの連中を目の敵にし、退役軍人を使って彼らの粛清に乗り出していた。

暴行殺人容疑者の裁判と上院議員選を控えたウィルの選挙行動と、奇怪な殺人者を追うキーン刑事の捜査活動が交互に進行する。これがどう結びついてクライマックスを盛り上げるか、作者の腕の見せどころである。ややご都合主義的な点はあるが、期待を裏切らない出来映えである。南部ならではの特異性や差別思想が引き起こす事件を、よく書き込んだ土着ミステリである。


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