もし人間に≪死≫がなかったら、冒険小説はまったくつまらないものになってしまうに違いない。
だってそうだろう、死地に赴きながら、艱難辛苦・絶体絶命の危機をいかに脱するか、どうやって男の誇りと名誉を失わずに1秒でも自分の力を最後の1滴まで振り絞るか、それが見所なんだから。
ところがこの“グランド・マスター”は死なない。
死んでも生き返ってくる、永遠に……。
となるとまったくツマらなさそうだがさにあらず!! たとえはこんな一節はいかが。
≪偉大なプレイヤーたちのすべては、チェスを生死を賭した戦いとみなしている。
だが、それは素晴らしい死なのだ。
なぜなら、次のゲームのために駒が盤上で並べなおされたとたん、死んだプレイヤーは蘇るからだ≫
そう、これはチェスなのだ、永遠に続く緊迫した様々な局面のチェス・ゲームなのだ。
ジャスティンはCIA陰の工作員。
片や、KGBあるいは党書記長をも見下す力を持つジャルコフ。
この二人の対決は古代から続けられている、ブルー・ハット対ブラック・ハットの、善と悪との闘いでもあった。