南極大氷原北上す
著作名
南極大氷原北上す
著者
リチャード・モラン
ジャンル
冒険小説
星の数
★★★
出版社
扶桑社ミステリー
原作出版
1986
備考
ミステリベスト201より

1995年、南極、海底火山が爆発し、32万平方キロの巨大なロス棚氷が太平洋を北上し始めた。
このままでは、地球の水位は一気に6メートルも上昇してしまう。
世界の湾岸都市が危ない。
だが、危機はそれだけにとどまらない。
ソ連軍部は、これを機に一気に軍事的劣勢を挽回しようとするし、アメリカはそうさせまいとする。
その対立は、出世欲に囚われた一人のアメリカ人の猿知恵のせいで、核戦争の可能性まで帯びてきたのである。
まさに、地球滅亡の危機だ。

天災に人災が火を注いだ地球規模の危機を、入念な取材に基づいて描いた本書。天災の被害を最小限に押さえ、パニックを防ごうとする科学者やジャーナリスト達が主人公である。彼らは、一人一人の被害者を救うために自ら手を差し伸べるわけではないが、現実を直視しようとしないお偉方の説得や、情報収集、火山の調査分析などを通じて、世界を救おうとする。その活動が実にサスペンスフルに、時にはロマンスも交えて描かれている。また、「大氷原北上――二十八・七海里(五十四キロ)」という形式に統一された章の見出しは、危機が迫る様子を冷徹な数字で物語っており、緊張感を高めるのに一役かっている。

様々な危機が次々に発生する本書。少々話がうまくいきすぎるきらいはあるが、スピーディーでよしとしよう。そうでもしなければ、広げた大風呂敷をしまうことが出来ないのだ。また、忘れてならないのが動物達の魅力だ。南極に住むペンギンの何とたくましいことだろう。さらに、百二十八歳(!)の老予言者や、日本人漁船団の活躍も見逃せない。

本書は、リチャード・モランのデビュー作である。二作目は『ダラスが消えた日』という、これまた天災人災モノである。ダラス市全体が地下に陥没し、しかもそこに核ミサイルが飛んでくるという話だ。大三作は『氷の帝国』となっている(村上貴史)


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