親譲りの財産のおかげで気ままな生活を楽しんでいるアントニー・ギリンガムが、友人のビル・べヴリーの滞在先である赤い館を訪ねてみると、ホールで一人の男が「ドアをあけろ」と叫びながら閉まった戸を叩いている場面に出くわした。
この男は、赤い館の主人マーク・アブレットの従弟で、幼時よりケンブリッジを卒業するまでマークの世話になり、現在はマークの秘書をしているケイリーという人物で、いましがたそのドアの中の事務室で銃声が聞こえたという。
部屋の中にはマークと、マークの兄で15年ぶりにはるばるオーストラリアからやってきたロバートの二人がいるはずであった。
だが、ギリンガム指示で、窓を破って室内に入ってみると、額を撃ち抜かれたロバートの死体が転がり、マークの姿は影も形も見えなかった。